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[コメント] 僕の村は戦場だった(1962/露)

 そこにある物語とあるはずだった物語の差が、胸を打つ。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 回想シーンは眩しかった。あまりにも眩しくて、そんな世界はないだろと思ったくらいに。水辺を駈けていく、りんごを掴む。あれらのシーンには物があまりない。でも間違いなく幸せな瞬間がそこにはあっただろう。

 ムスッとしたどころじゃない、憎しみすら感じる顔のイワン。大人の表情にはまだ余裕がある。女の子に手を出す余裕すらある。でもイワンにそんな余裕なんかない。イワンには小さな村が(ロシアだと大きいのか?まあいいや)世界のすべてだった。そこ以外の幸せなんて、まだ知らなかっただろう。曲がりなりにもいくらかの経験を積んでいる大人じゃない、彼の幸せは村にしかなかった。イワンの憎しみはドイツへのものだけじゃない、きっと世界を恨んでいただろう。だから彼は孤独だ。あんな幼い子供なのに。

 そこにあったはずの物語を、眩しいシーンで想像する。それを思うと胸が痛む。彼の最後は映されない。何を思って死んだだろう。たった一人で世界を敵に回した子供、並んで首をくくる前、そこには彼の仲間がいただろうか。そこにないはずだった、あって欲しくなかった物語を持つ子供たち。そんな子供たちは、大人になることも許されないのだろうか。誰に許されない?彼が敵と見なした世界に?戦争をしている世界に?戦争を始めた大人に? 何て悲しい物語。

(評価:★4)

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