[コメント] 一瞬の夢(1997/中国=香港)
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また、赤を基調とした豊かな色彩感覚が、ただでさえ暗くなりがちな物語に、それだけできない楽しみを与えてくれていた。長回しの多用も、役者(皆が素人とは!)の息遣いや周囲の音、そういったものまでもをフィルムに収め、その時、その時を切り取ろうと試みられていて、自分にはそれも大きな魅力であった。
主人公が恋した女を見舞いに行くシーンがやはり印象的。ここではまず寝ている女の姿が主体的に映され、主人公はというと、ほんの少し足の部分辺りが映されるだけであるが、湯たんぽの件を境に主人公はようやく女の部屋にその姿を現すことを許される。が、しかし、彼らの姿が映し出されるのは逆光の中に限られている。正面からは決して陽が当たらない。そしてその後女は、彼の元から忽然と姿を消してしまう。あの逆光の中では美しくも見えた煙草の煙のように。その辺りの暗喩が後々効いてくるのもいい。
暗喩と言えるのかどうかは分からないが、自分の手でポケベルや電話等を買おうと思えば買える立場にありながら、あえてそれをせずに直接交渉のみがコミュニケーションのすべてであるような主人公が、女に一方通行のポケベル約束をさせられ、結果それがきっかけとなって崩壊への一途をたどる様も皮肉だ。ラストの視線も、本当に衝撃的。
このように、ジャ・ジャンクー監督の処女作である本作は、描かれている内容には厳しいものを感じ取りつつも、個人的には大きな魅力に満ちた1本であった。大きな魅力といえば、化粧を落とした女が、カラオケバーでの彼女よりも数倍可愛く感じられるところなどにも男心を激しくくすぐられてしまったことも正直に告白しておきたい。
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