[コメント] 一瞬の夢(1997/中国=香港)
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印象に残るラストであった。罰として柱に括り付けられ、衆目の視線を浴びる主人公。魯迅を思わせる。
「スリ」は捕まらない限り「誰でもない」存在である。なぜなら、スラれた人にとって、物を盗られたことに後で気づいたとしても、誰が盗ったかはわからないからだ。ある程度の年齢に達し、かつてのスリ仲間が地方の名士(「顔」を売っていく人たち)の仲間入りをするのをよそに、主人公はいまだに何者でもなかった。
20世紀初頭、辛亥革命により清王朝が倒れ、中国は近代化を迎えた。そして、21世紀、中国は市場経済を大幅に導入し、新たな「近代化」の局面にたっている。大きな波に小さな流れは呑み込まれていく。
彼が見たささやかな夢、彼は地に足をつけ新しい生活を送っていこうとしていた。いままでずっと「姿」を消していたがゆえか、あまりにナイーブな彼の夢はやがて無惨に崩れる。年をとってからの痛みは、若かったときほど簡単に癒えるものではない。
そして彼は捕まることで、初めて見られる存在、「顔が見える」存在になる、「悪人」(ある種の「異常な人」として)の烙印を押されて。最後、カメラはパンして、彼ではなく彼を見つめる人びとが映し出される。あまりにも救いがないようだが、再び姿の見えなくなった彼のなかで何かが芽生えていたのだと信じたい。たとえそれがドン・キホーテのような負け戦であっても、そうした意識の芽生えこそが、中国にとって本当の意味での「第二の」近代化なのだと思う。(★3.5)
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