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[コメント] 会議は踊る(1931/独)

「キスは手でなく。私にも唇がある。」とるにたりない夢物語。けれどもとても愛おしい映画。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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背中がゾクゾクするぐらい日常からして舞台女優な戯画的ヒロイン、クリステル。いかにもな小賢しい魅力に満ちた悪役、メッテルニヒ。頭も切れるし女の扱いにも手慣れたプレイボーイ、アレクサンダー。実はヅラを愛用している刺繍が趣味で甘党の影武者、ウラルスキー。図体もデカいが態度もデカい部下、ビビコフ。職務への忠誠心とクリステルへの恋情に右往左往するヘタレのペピ。酒場でうたう悟りきったような流し、皇帝やヒロインに付いて回る楽団、策略家の老獪な婦人、などなど、鳥かごの中で飼われている愛らしい猿を含め、とにかく登場人物のすべてがキャラ立ちしている。

舞台で鳴るバレエ音楽に合わせた観客の居眠りや扇を使ったラヴシ−ン、ダンスに気をとられた宰相たちが立ち去った後の主なくしてゆれる椅子。ヒロインとペピのあいだで交わされる、くどいぐらいリズミカルな押し問答。

唐突にインサートされるナポレオンのシルエットや波と月の美しさ。動揺したメッテルニヒがあふれさせてしまうコップの水。ヒロインの話をすぐには信じずはしゃぐ少女たちの嬌声、押し合いへし合いなだれ込んだ彼女たちのなまめかしい足。チャリティー・キスの場面で山積みとなる大袈裟なナプキンの山。いつまでも眺めていたくなるダンスに翻るドレスの裾。噴水の水でサッと整えられる髪。本棚の隠し扉から登場する部下。馬車でうたうヒロインの笑みと、それを祝福するかのように手をふる町の人々。つられてうたうガチョウ(あひる?)、投げ込まれる花、はずむ風船。湯気をたてるサモワールと理解できないコトバを話す子ども。そっと口に押し込まれる柔らかそうな茶菓子。

そして、随所で舌をだす粋なブラックユーモアの数々と、耳に残るテーマソングの至福と哀愁。

確かにつまらない話ではあるが、私はこの映画におけるこれらの細部を愛さずにはいられない。細部に宿る映画への愛情に気付くたびどうしようもなく嬉しく思い、こんな映画をつくってくれたスタッフと、このフィルムを後世に残してくれた人々に、心からの感謝を覚えずにはいられなくなるよ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)G31[*] 甘崎庵[*] 若尾好き

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