[コメント] 秋のソナタ(1978/スウェーデン)
映画を見終った人むけのレビューです。
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家族を題材とした映画は大好き。特にそれまですれ違いが続いていた家族が集まり、本音を話し合うことによって、互いに受け入れあっていく。言ってしまえば、それまでの形式だけの家族が本物の家族になる過程を描いた作品が好き。特にこういった作品は映画の形式では数多いのだが、これが当代随一の監督と名優バーグマンとウルマンという二大スターによってなされたと言う事で、本作の見応えは実に凄まじい。
現時点で私はベルイマン監督作品をそれほど多く観ている訳ではないが、その大部分の作品は、家族のあり方について描かれている事を感じさせる。それも上手くいっている家族ではなく、どこかひずみを持ち、それを互いに言い出せない状態の家族。長い間抑圧された思いをぶつけ合ったり、あるいはそれをぐっと飲み込んで生きていくことになるのか。その解決方法は様々。
映画ではエキセントリックな感じに仕上げられることが多いが、リアルな家族の姿がそこにはある。実際家族というのは存在が近いがために、色々いやらしい部分が見えてくるし、それでも生活を送っていかねばならないからこそ、言いたいことを言わずに終わらせてしまうことも多い。普通の場合、それは思春期として現れ、親を不潔な存在として捉え、一方親はこどもを一種のモンスターとして捉える。その緊張感をはらんだ時期が家族には存在する。
大概の場合これはこどもが自立することによって、お互いに一個の存在として認識できるようになって和解していくもの。多少問題があっても、子離れ親離れができるならば、これで一件落着である。
しかし、こどもの頃に植え付けられた虐待のイメージが強いと、それができない場合もある。ここで虐待とは暴力という形ではなく、特に最近はネグレクトと言われる、無視という形で現れる場合もある(同様に過保護も問題があるが)。親から無視されて育ったこどもは、成長してからかなりやっかいな問題をはらむことが多い。本作は実はそのネグレクトを主題とした物語と言えよう。
バーグマン演じるシャルロットはそれでもエヴァに対し「愛していた」と語る。だがその愛情は全く注がれることがなかった。芸術家であるシャルロットにとって最上の愛情は自分の仕事にかかわるところに注がれ、家族は二の次。しかもしょうがいを持つ娘がいることが重責となっているので、結果としていくら愛していると自分では思っていても家族から目を背けることになる。外から見たら申し分ない家庭に見えても、中の家族にとっては「第一に愛されてない」といううつろさがずっと続くことになる。
特に感受性の強い(疳の強い)エヴァは、それを心に押し込め続けてきたのだろう。彼女が結婚したのは父親とまごうばかりの年上の男性だったのも(ついでに言えば宗教家であったのも)それが原因だったのかもしれない。
彼女は今、自分が精神的に不安定であることを自覚しているのだろう。だからこそ自分の気持ちに決着を付けるために母を呼ぶ。
この物語は互いに本音をぶつけ合い、それで傷ついて別れる。ただそれだけ。しかし、家族の再生とはそこから始まる。ここでお互いに本当の気持ちを知った上で少しずつ和解していくものなのだ。和解まで持っていかなかったのはかえってリアル。
本作での見所は何より二大女優のぶつかり合い。バーグマンにとっては本作が実質引退作だが、自分の全てを投入したと語り、「初めて演技らしい演技をやらせてもらえた」と語っていたとか。確かにそれまでバーグマンは美しさや気品しか求められてない傾向があったが、演技派女優であることの意地を見せた感じ。一方ベルイマン作品には常連のウルマンも凄い。最初の内、全然目立たない控えめの女性のように見せていて、その仮面が徐々に剥がれてはき出すように本音を言い出すようになる過程を見事に演じきっていた。 観ていてきついけど、素晴らしい作品なのは確か。
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