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[コメント] 人狼 JIN-ROH(1999/日)

無為な内輪もめと策謀と自己陶酔に包囲され閉塞する心。低く昏い空。虚ろな時代の暗黒の迷宮=地下水道で「赤ずきん」が流す「それでも、だからこそ愛しか寄る辺はないのに」というやるせなく苦い涙。このウエットな演出と独特の台詞回しには心の予期しない部分を突かれた。押井脚本の能書の空虚さ(本作については敢えてこの表現を使おう)はかえってベタな情感の反作用としててきめんに効を奏したと評価したい。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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藤木義勝 / 武藤寿美の会心の演技。この二人の個性が確かに映画を支えている。この二人の声は決定的に「通らない」。この声質が地下水道の闇にはばまれて消える様が儚くてよい。

押井の「能書」について補足すると、小説の台詞をそのまま感情を入れて読んでいる、という文語感が、本作については特に独特な味わいを持たせている。

溝口肇らしからぬ寒々しい美が映える楽曲、意識された「生気のない」作画(沖浦の「蒼白」はテーマに即していればかなり好きだ)、硬質ながらアニメらしい持ち味を主張する銃撃シーンなど、皆良い。旧友:辺見との対峙のシーンのカット割りと台詞回し、カメラワークも正直言って「たまらない」。

辺見:木下浩之の声もいいですね。「・・・ぉ、お前だって・・・にぃんげんじゃねえかぁぁ!!」振り返り様の渾身の叫び。次のカットでカメラが捉える特機戦闘服の無表情と機銃の重量感。「ふせえぇええぇ!(伏!)」の声の裏返り。最高です。こういう職人声優の仕事を目の当たりにすると、胸のすくような思いです。どこぞのスタジオへあてつけがましく、拍手。

時代に怪物であることを強制された苦しみを、藤木義勝の低く重い呟きが物語る。この意味では、「沖浦×押井によるランボー」という見方も有り得る。時代設定への異様なこだわりの根拠を、ここに求めるのもそれほど不自然ではない気がする。

良い要素だらけなのだが、寓話として語るなら寓意を最後まで台詞で説明するのはズッコケとしか言いようがない。説明は入り口だけで良いのだ。「シメ」の一言に憤慨。残念すぎるぞ、沖浦君!

ところで「ふせ」は「伏」(にんべんに犬。人狼)であり、「布施」でないのだということに今更のように気がつきました。これ、ファンには常識なんでしょうけども、このセンスはさすがにちょっとやり過ぎなのではないか、と思わないでもありません。

(評価:★4)

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