[コメント] サイダーハウス・ルール(1999/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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メイン州の片田舎にある孤児院。院長で医師でもあるラーチは、堕胎手術を手がける闇医者としての側面ももっている。そんなラーチの孤児院で育ったホーマーは、彼の片腕として医術を身につけていく。けれども、堕胎手術に関してだけは「妊娠を望まない女性のため」という現実を理解しつつも、(孤児であるゆえか)時代的にも反社会的なその「堕胎という行為そのもの」を受け入れることができず、決して手伝おうとはしない。
そんなある日、堕胎手術を求めて若い恋人たち - ウォリーとキャンディ- が孤児院にやって来る。青年になり自分の生き方に疑問を持ち始めていたホーマーは、彼らに外の世界へ連れ出してもらえないかと頼む。 そして、外の世界を知りたいとは思いつつも特に行くあてもなかったホーマーは、ウォリーの実家の農場で、季節労働者とともに働きだす。 林檎のシードルを作るためのサイダーハウス、シーズン中季節労働者とともに暮らすことになる小屋の壁には、利用者のためのルールを記したメモが貼り付けられている。文盲の彼らに請われて、今まで誰も読むことのできなかったそのサイダーハウスルールを声に出して読むホーマー。そしてそのナンセンスぶりを鼻で笑う季節労働者たち。当時者の現実や意志を無視したルールなどは何の意味もなさない。規範とされるルールと、本当に大切な現実の生活。真に必要な、現実に即した自分なりのルール。
職業軍人のウォリーはすぐに出征し、残ったキャンディとホーマーのあいだにはやがて恋が芽生えてゆく。生まれて初めての海。初めてのドライブインシアター。「キングコング」以外の映画。そして初めてのキス。 恩人の恋人と付き合うだなんて!という「社会的なルール」よりも、寂しくて誰かにすがりたい「キャンディの気持ち」を自然に優先させるホーマー。
農場の仕事にも慣れ季節労働者たちともすっかり心が通ってきた頃、孤児院院長の座を追われそうになったラーチから「後継者になって欲しい。」という旨の手紙が届く。けれどもホーマーはそれを断り、医術にはもう興味がないのだと農園での生活を謳歌し続ける。 ところがある日、季節労働者のボスの娘 - ローズ- が望まない妊娠をしていることを知り、その堕胎手術のためにとうとう医療かばんを開くことになる。 初めての堕胎手術を成功させ、真に人の役に立つということは何なのか考えだすホーマー。「一般的な規範よりも大切な現実」を、「人のために役立つことの重要性」を、頭ではなく心と身体全体で理解しはじめるホーマー。そして、戦争に行ったウォリーが悲劇的な姿で帰還しキャンディとの仲が終わったことも手伝い、とうとう孤児院に帰る決意を固める…。
本筋とは関係のない「おやすみ、メイン州の王子。そして、ニューイングランドの王!」のお決まりシーンや、孤児院での「キングコング」上映シーンなどに泣きそうになった。 里親を待ちこがれる少年や気管支に問題を抱える少年、堕胎手術の失敗で死んでしまった少女など、ひとりひとりのエピソードも切ない。
ただ、ホーマーとラーチが手紙をやりとりするシーンがあまりにストレートな演出だったので、そのあたりをもう少し情感豊かに表現して欲しかったのと、(原作がアービングだし仕方ないのだろうけれど)どぎついエピソードにばかり目を奪われてしまいそうで「これじゃー、ただの奇妙なおとぎ話では?」という疑念があるのも事実。 そのどぎつさがあるからこそ押しつけがましさを感じずに「社会的なルールっていったい何なのよ? 一般的なモラルって何なわけ?」ということを改めて考えさせてもらえるきっかけを得た、というのも事実なのだが…。
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