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[コメント] みな殺しの霊歌(1968/日)

暴力の表層だけを見るよりも、その背後を覗いた時に初めてゾクリと戦慄が走る。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最後に殺された女のいまわの際のセリフ。「何も・・・悪い事・・・してない」(ややうろ覚え)。女たちは死の瞬間まで懺悔も後悔もすることなく、自分たちの犯した罪の真の意味に気付けない。つまり彼女たちは、受けている制裁を不条理としか受け取れないということ。少年を不条理な死に追いやった彼女たちには、徹底して不条理な暴力で打ちのめそうとする。そんな監督の非情さが心底怖い。

さらには回想シーンで自殺した少年の「罪のない」笑顔のバックで流れる、「ドスッ、ボコッ」という「暴力」の効果音。「罪のなさ」と「暴力」が一つの画面に両立している、その鮮烈なコントラスト。確かにこの男の中では心根の優しさと暴力が両立している。だからこそ怖い、とも言える。そしてもう後戻りできないところまできて、初めて彼の心が動揺を見せる。最後の一人が生き絶えた後の、胸を掻きむしるような男の叫び。その筋書き自体も非情としか言いようがない。

暴力描写自体も秀逸。短いカット割りの連続、しかも極度のアップ。対象や暴力描写を暗闇の中でわざと曖昧にしか見せないにも関わらず、断続的に暴力音だけが生々しく響く。その不安を煽るような怖さ。そして殺人が終わると、ロー・アングル気味の安定した画面へと転じる。不安定と安定のコントラスト。ともあれこの映画があえて(コントラストが際立つ)白黒を選んでいる意味には説得力がある。

ただことあるごとに流れるスキャットだけは、どうにもイタダケなかった(あくまで個人的好み)。

(2002/10/22)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)おーい粗茶 ジョー・チップ[*]

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