[コメント] カップルズ(1996/台湾)
今となってはホンコンという役名(ニックネーム)のチャン・チェンが最も出世頭だし、やっぱり一番のイケメンでスケコマシという設定の役柄だが、結局、最後まで見てしまうと、チャン・チェンは主人公ではなく、レッドフィッシュ−タン・ツォンシェンとルンルン−クー・ユールンのいずれかと云っていいだろう。しかし、ヒロインは紛れもなくマルト−ルドワイヤンだ。
また、チャン・チェンと共にあの大傑作『クーリンチェ少年殺人事件』で最も存在感を発揮していた(小猫王という小柄だが最も男気のある役柄で、レストランでフランキー・アヴァロンを唄っていた)ワン・チーザンが、本作ではリトルブッダという役名のインチキ占い師をやっていて、これは嬉しかった。
さて、エドワード・ヤンの傑作群の中に置くと、ちょっとやり過ぎの演出も目についてしまって若干分が悪い作品に感じられるところもあるけれど、しかし、やっぱり冷静に考えると、全てのカットが力みなぎる画面であり、その実力は桁違いと云うべきだろう。シーンの多くがシーケンスショットで造型されていて、それがほゞ人物の視線の高さレベルの(ちょっと俯瞰気味の)アングルで、被写体を突き放すように撮っている、というのが奏功している。レッドフィッシュによって、売春クラブの女ボス−ジンジャーに売られそうになるマルトをルンルンが止める場面や、レッドフィッシュと間違えられたルンルンがマルト共々ヤクザの手先に拉致される場面と、マルトの気丈な描写なんかがとてもいいと思うが、一番グッと来たのは、女性3人に弄ばれて、泣き出してしまったホンコンのショットに繋げ、泣き声だけは画面外に残したまゝ、台北の夜景をビルの屋上ぐらいの場所から撮った俯瞰ショットで、ティルトアップして見せる演出だ。
上に書いた、ちょっとやり過ぎの演出と感じられる部分を一応記載しておくと、例えば序盤でハード・ロック・カフェからホンコン−チャン・チェンがお持ち帰りしたアリソン−アイビー・チェン(この女優もルックスはとてもいい)をレッドフィッシュやリトルブッダらと分かち合うというプロットもちょっと酷いが、さらに、このアリソンのアホっぽい描き方が辛い。ホンコンの最後の出番まで泣きっぱなしなのは疑問に感じるし、レッドフィッシュの帰結もこゝまで激昂するか、というシチュエーションに感じる。あるいは、レッドフィッシュの母親を演じているエイレン・チンも絶叫演技に過ぎるだろう。
他にも、本作には明らかなコメディテイストの場面があり、レッドフィッシュを追う2人のヤクザのドジぶりなど、この点でもやり過ぎを感じるところがあるが、しかし、停車中のベンツに軽トラックをぶつけて傷つけるシーンの反復だとか、マルトの唐突に見せる見事な銃さばきだとか、かなり驚かされる演出が適時繰り出される。そして、レッドフィッシュをつけ狙うヤクザの一人(黒いジャケットを着た先輩の方)が、『恋恋風塵』『悲情城市』を含む台湾映画を代表する脚本家であり、『ヤンヤン夏の思い出』の主人公(NJ・お父さん)でもあるウー・ニェンツェンであるということも嬉しい。
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