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[コメント] 地獄の逃避行(1973/米)

形骸化した権威に対する反発。漠然とした抑圧からの逃走。1960年代後半から頻出し始めたアメリカンニューシネマの主人公の行動(大きな意味での逃避)にはおぼろげながらにも目的や理由が存在し、それが例え破滅的であっても“逃げること”へのシンパシーの源泉だった。
ぽんしゅう

1973年に登場した本作は逃避物語の極北にして最後のアメリカンニューシネマではないだろうか。この25歳の連続殺人犯キット(マーティン・シーン)と、彼の言動を非難するでもなく、さりとて共感も示さず行動をともにする15歳の少女ホリー(シシー・スペイセク)の逃避行には“逃げること”以外の目的も理由も存在しないのだ。

脚本・監督のテレンス・マリックは1943年生まれで制作当時は30歳。例えば『明日に向って撃て!』のジョージ・ロイ・ヒルは1921年生まれ、『俺たちに明日はない』のアーサー・ペンは1922年、『真夜中のカーボーイ』のジョン・シュレシンジャーは1926年、『卒業』のマイク・ニコルズは1931年生まれだ。マリックは彼らより20〜15歳も若い。

さらに言えば映画のモチーフになった連続殺人事件は1959年の出来事で犯人のチャールズ・スタークウェザーは1938年生まれでマリックとは5歳違い。劇中で主人公キットが似ていると言われるジェームズ・ディーンが17歳の主人公を演じる『理由なき反抗』(原題:Rebel Without a Cause)は1955年の公開。マリックが13歳のときだ。

アメリカンニューシネマの主人公たちの“逃避”にロマンを投影できた前世代の監督たちとは違いテレンス・マリックにとって『バットランズ』(『地獄の逃避行』)は同時代の伴走者としの正直な気分である“Rebel Without a Cause”の吐露だったのだろう。それが本作が極北にして最後のアメリカンニューシネマの様相を呈する理由だと思う。

※2025年3月 『バットランズ』として劇場初公開時に鑑賞

(評価:★5)

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