[コメント] 地獄(1999/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「見世物小屋」……あいにく自分は実物をまだ見たことが無い。しかし「蛇女」「ろくろ首」「人間ポンプ」とか、普段はテレビでも見られないような珍奇な芸や代物を、各地の祭りを巡り掘っ立て小屋をこしらえて木戸銭払わせて見せているということを考えると、それだけでもいかがわしさ満点だと思えてくる。しかし現在の見世物小屋事情は風前の灯で、実際に興行しているのはたったの2社しかないそうだ。娯楽の変化というものもあるだろうが、今の世の中で余りにも珍奇なモノを見せたりすると、たちまち批判の矢面に立たされるからではないか。かつては一寸法師(小人)や達磨(手足が無い)といった人々も登場したそうだが、これを現在そういった形式で公開しようものなら、いろいろな団体からクレームが来ることは容易に想像が付く。
石井輝男の映画もまた、かつては世間の良識から叩かれまくっていた(これは石井輝男の項目を見れば察するに余りある)。だが自らを“社会派ではなくエンターテイメント”と呼ぶ石井からすれば、まずは観客が見たいものをストレートに描くことが一番大切なのだ。エロく見せるべき場面は惜しげもなく女優の胸をさらけ出させ、残酷なシーンにおいては腕や足がポンポン飛んだり血が吹き出たりするという風に、実に徹底しているのだ。嘘だと思ったら、氏が60年代後半〜70年代前半にかけてメガホンを取った作品を観てみるがいい。本当にそうなのだから。
本作でもまた、そんな石井ワールドを次々と見せまくっている。確かに予算的な都合によりスタジオ然とした部分が何度も見受けられるのだが、限定された空間という点ではどこか「見世物小屋」のようでもある。そしてそんな地獄において、石井は現世において大犯罪を犯した人間達に対し次々と罰を与える。閻魔大王の裁きは絶対であり、麻原や青山弁護士や宮崎勉や林夫妻がこれでもかこれでもかと情け容赦ない罰を食らう。
これこそまさに見世物小屋的感覚だ。「実在する重罪者が地獄に落ちたらこうなる」と掲げられた看板を出し、そこに物見由山や好奇心で入ってきた客から木戸銭を取り、限定された空間の中で客が見たいものをストレートに描く。そこに芸術的要素が入り込む余地は一切なく、仮にあったとしてもそれは“箸休め”に過ぎない。まあ映画としてみれば自分も3点ぐらいなのだが、現代日本においてここまで如何わしい映画をこしらえられるのは、石井輝男しかいない。その英断は高く評価したい。
ちなみに最後の丹波哲郎ですが、あれは『直撃地獄拳・大逆転』のラストみたいなもので、しかも楽屋オチなので分からない人にしか分かりません。良識派め、ざまあみろ!
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