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[コメント] ボーイズ・ドント・クライ(1999/米)

有り得る。
24

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一箇所たりとも不自然なシーンがないといってもいいくらい。耳障りなロック調の音楽や映像面では有象無象の現代映画と全く変わらないものの、その現実描写(といってもアメリカの実際などは知らないが)の的確さにおいて一線を画している。メッセージの強さ。

ヒラリー・スワンクは 賞をとって当然だろう。彼女以外では無理なものを感じさせた。何より男とも女とも取れるあの外見こそ作品に深みを与えている。男として振舞う前半も、女であることがばれてしまう後半も美しく、逞しい。彼女自身の描写においてはネガティヴなものは感じられなかった。もちろん犯罪行為はあるのだけれど。卑劣だったり、変に悪い方に屈折した性格は抱えていないような。

性同一障害が骨子になっている映画ではあるが、その障害に対する悩みや苦悩、克服心みたいなものは描かれていない。自分の異質性を隠しながらも、それを認め(或いは諦め)、症状に沿うようにして生きていこうとする。つまり、男になりきりそして女を求める。自分が主人公だったらまずしないだろう。ブランドンは自己の欲求に忠実で、勇気のある行動が取れている。

ブランドンが《自然に》生きている限り彼女は絶対的である。ところが社会、周りの人間、関わってくる人間が当然登場してくるので、この映画は彼女と他人との相対的な関係を描いたものなのだろう。彼女の生き方と、社会との関わり。異質なものは決して個人内部のみで起こる問題ではない。今地球上に一人しか人間がいなかったのなら、その人間はどんな特徴を持ち合わせていようとも絶対に異質ではない。社会があってこその『異質』。差別や部外者がテーマな作品は常にそうであるはずだ。障害とは社会システムが出す平均値や同一性との逸脱だから良いでも悪いでもない。ということで他人との関わりに焦点が当てられているストーリーは重要だ。

ブランドンは死んでしまう。いつも思うのだが、死んでしまったら口が裂けても幸せだったなどとは言えない。現実はそう簡単に許してはくれないだろうけど、生きている限り未来がある。死んでよかったなんてこと滅多にない。彼女にだって未来がないと誰が言い切れるだろう?青い考えで申し訳ないけど。

ラナは主人公にとって真に愛する人間だったのか?そこに関する描写がやや甘めだが、ブランドンにとっては最初で最後の《異性》だったのかもしれない。愛し合えるものが異性だろ?ブランドンから見た場合、愛を成就させた愛しい人だろうが、ラナを見た場合より大きな変化が現れている。あばずれ女からブランドンの属性を全肯定できる人間になる彼女の成長、もしくは認識。

もっとも考えたのが2人の男の下劣性。主人公が女だと知った後の行動。否、行動ではなく所業。2人がかりでレイプし、最終的には犯行抹消のため(かどうか知らんが)自分たちの仲間も含め銃殺してしまう。ここが非常にリアルだ。奴らの描写は前半では抑えられているものの、内部に潜む幼児性、未発達性などはよく分かる(他人に罪を押し付け車から追い出すシーン)。曲がりなりにも仲間に引き入れた人間をレイプできるのだろうか。ブランドンは彼らを一応騙していたわけだが、奴らはその仕返しとしてではなく、単に女だからやったのだ。獣よりも劣る。

ブランドンも奴らのような出来そこないみたいな連中に仲間入りしたことでは非があるかもしれない。だが絶対悪なのは飽く迄も男二人。自分だったらたとえ地球最後の日でもやらないね。彼女を疎んじたりもしないはずだ。それが人間ってもんだろう!世の中は広いと思います。この映画では少し極端かもしれないけれど、どこでも有り得る話だと思う。アメリカでは銃がすぐに出てくるけど、日本にだって大量にいる。トラッシュだ。もちろん全てが悪という訳ではないのだろうけど、悪い事ばかりしているやつら。そういう人間はやっぱり『《異質》な人間を自分よりも劣った存在として認めてしまう点』において(だからレイプするのだろう)、極めて未発達的だ。私はそのような人間をどうしても認めることが出来ない。

などと書いていて気付いた。これも差別じゃないか?

(評価:★4)

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