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[コメント] 風花(2000/日)

北海道に拘った彼の遺作が北海道を舞台にした映画でこのパワーダウンはハッキリ云って失望する部分もあるが、今はただ日本映画界からこれだけの演出力が失われたことが残念でならない。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
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 これが相米の遺作かと思うととても寂しい。とは云っても、この映画も抜群のオープニングを持つ映画だし、随所にハッとするような映画的な画面が散りばめられている。まず、ファーストカット、桜の樹のクレーン移動の長回しは本当に見事だが、樹の根本に小泉今日子浅野忠信が重なるように横臥している様はまるで浅野の股間に小泉が顔を埋めているようでドキリとする。それが、単なる思わせぶりにとどまらずシーンが進むと(別の場面で)事実として提示されるという趣向は面白い。また、二人が覚醒してからの台詞のやりとりが観客にとっては意味不明で、不条理劇を見ているようなのだが、映画の中盤までにフラッシュバックで二人の関係が解きほぐされる構成になっているのも良い。この映画のフラッシュバックは良いものもあれば悪いものもあって、小泉の妊娠中の場面で亡き夫(鶴見辰吾)とのやりとりは気の抜けたような力の無い画面でよろしくない。妊娠を告白される雨の場面の「でかした!」なんて台詞は薄ら寒いものを感じるが、ワザとミスマッチを狙ったのか。小泉の過去に関しては亡き夫にしても母親にしても子供にしても平板な扱いなので映画に厚みが出ない。

 しかし、斜面をフィルムに定着させる術だとか、柄本明の旅館のシーンの濃密度だとか、小泉が氷島で睡眠薬を飲んだ後の桜の樹の下のフラッシュバックだとか、やっぱり相米演出には見捨てられない細部の良さがある。北海道に拘った彼の遺作が北海道を舞台にした映画でこのパワーダウンはハッキリ云って失望する部分もあるが、今はただ日本映画界からこれだけの演出力が失われたことが残念でならない。『雪の断章』のような独りよがりでも突出した映画をもっと作って欲しかったと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ナム太郎[*] トシ[*]

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