[コメント] BLOOD:THE LAST VAMPIRE(2000/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ProductionI.G.による、いわば実験アニメ作品。社長肝いりでI.G.社内に設立された映像研究部“押井塾”による作品である。
近年作家性を持つアニメーション監督がよくトピックに上ることが多い。そこで語られることでは、ジブリでは宮崎駿。そしてI.G.では押井守。と言うことが言われるようになったが、会社に対する両者のスタンスは全く違う。実は押井守はフリーの監督で、I.G.とはそもそもパートナーとして選んだ会社に過ぎない。だから押井は社員でも役員でもなく、作品毎に雇われて映画を作っている。
これはそもそもI.G.の石川社長が前に在籍していたタツノコプロから独立し、I.G.タツノコという子会社を作ったことから両者の関係が始まる。新しい会社を作る際、石川社長は自分のコネを総動員し、当時一流のアニメーターや演出家をアルバイトの形で“手伝い”に入れた。この方法で経費をギリギリまで落としたと言う経緯があり、その際当時アニメ界から干されていた押井にも声をかけたという訳だ。I.G.の最初の作品『赤い光弾ジリオン』では、押井は丸輪零という変名でよく関わっているが、これも全部アルバイト感覚。両者の関係はそこから始まったのだが、石川社長のユニークな所は作家性を存分に活かす環境を整えてくれることで、その居心地が良いからこそ、押井は以降の作品をI.G.で制作するようになっていった。
それで石川社長に頼まれ、軽い気持ちで引き受けたのが押井塾で、雇われ塾講師のようなものをやっていた訳だが、そこで押井自身が自分の企画として挙げた吸血鬼ものを作ってみよう。と言う話へと変わっていき、いわば本作はその卒業制作のような作品とも言える。勿論世紀の学校とは異なりプロが作るものだから、どうせ作るんだったら。と言うことで、フルデジタルアニメという新しい試みもちゃんと取り入れられている。 それまでにも部分的にデジタルを入れるアニメーションは作られてきたが、本作はその全てをデジタルで作ってやろう。と言うことで、デジタルでしか作れない演出が、これでもか!と言うほどよく入っている。一番顕著なのは配色。セルアニメと違い、デジタルアニメの強味はちょっとした演出で風景の色を任意に変えることができる。本作で夜のシーンがやたらに多いのは、セルでは埋もれてしまう色をどこまで暗さの中できちんと見せるか。という挑戦でもあったのだ。その挑戦は確かに上手くいったようで、本作は後のアニメーション技術のボトムアップのためには大変な役割を果たす事になった。
ただ、押井自身は最初の設定を出しただけで本作の製作そのものには関わっておらず、自身が同じ設定の元、全く視点の違う小説「獣たちの夜」を描いただけで終わっている…小説の方は読んでいただけると分かるが、極めて私小説に近いもので、主人公の名前も三輪零という、いかにもな名前を使っている。
そのためかどうか知らないが、映像的には大変素晴らしい作品であるにもかかわらず、物語性は極めてシンプル…というか、全くひねりがないものに終わってしまっている。それが残念なところか。
ちなみに現在(2005年末)には本作の設定を取り入れたTVアニメ『BLOOD+』が放映中。
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