[コメント] 炎628(1985/露)
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だんだんと物事を見せていく演出は圧巻。前半は美しいロシアの片田舎という感じで、水分多めの画面が印象的だった(ちょっとタルコフスキーなのか?それともロシアは誰が撮ってもああなるのか?)。少年と少女が霧雨の中はしゃぐ場面は本当に“まぶしい青春”という感じさえした。
そこに挟まってくる戦争と死の影。砂に埋まっていた争い、空に浮かぶ偵察機、グチャリと踏んでしまった卵、腐ったスープ、ヒクヒクする牛の目。距離で、時間で、森で、霧で、ぼんやりと、もしくはチラッとしかわからなかった(チラッとわかるからこそ、不安感が高まる)虐殺の事実がはっきりと眼前に広がったときの恐ろしさ。少女の見せかけの狂気が本物の恐怖になる瞬間(強姦された少女の描写が生々しいのもびっくりした。そこまで描くのかと思った)。
前半部分のしっとりした生命の描写があるからこそ、ここで燃やされるすべては味も素っ気もない枯れ木を燃やすのではない、生の肉を燃やす臭いが漂ってくるようだ(少年の顔の皺も生々しい肉体の描写か)。あんまり怖かったんで、虐殺からドイツ兵を追いつめた所までの間が抜けていてもすんなり納得した。ああそうだね、記憶失っちゃうよね、と。
静かに雪の森を行くパルチザンを後ろから追っていくラストも忘れられない。1943年、終戦まであと二年。命の輝き薄い冬はまだ続く。
ただ、正直言って1985年にこの題材を撮る意味がわからない。戦争というテーマはいつの時代も普遍的だと言うこともできるのかもしれないけれど、怒濤のヒトラー巻き戻しのせいで“反戦”と言うよりは“ナチ憎し”という印象を受けた。あ、戦後四十年記念ということなのか?まあいいや。
まあそれにしても凄まじい映画だったなあ。広いソヴィエトの中の一つの村、まだ幼さの残る少年が主人公の、ごく一面的な、とても小さな物語。ドイツ兵がただの獣のようにしか描かれていない、とかそんな批判があるのかもしれなけれど、中途半端な煩悶がなく、その小さな物語で振り切ってしまったこの映画。すごい迫力だ。心底おののいた。
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