[コメント] ハンニバル(2001/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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食事のシーンが出てくる映画が好きだ。洒落た会話とか、上の空でとかで食事をするのではない。ひたすら食事そのものに没頭するシーンがとにかく好きだ(多分、いや間違いなくこれは押井守の影響だろう)。
のっけから変なことを書いてしまったが、意外に食事そのものを描いた映画というのは少ない。大体は先に言ったとおりで、食事というのは会食に他ならず、食事そのものではなく、会話が重要なものとなってしまうから。通常、映画における食事は小道具として用いられているのが普通だ。
ただ、食事シーンを殊更集中して描く映画というのもあるにはある。リビングデッドものや『食人族』に代表される、いわゆるカニバル映画がそれ。人を食うと言う背徳的な主題を全面に持ってきたため、ショックシーン連発で、そして結果的に食事シーンを克明に撮ることで、クライマックスを迎える。ある意味、これほど食事に熱中する映画はないだろう。
だけど、これにはかなり問題がある。食事が全然美味そうに見えない(見えたら随分やばいが)。むしろこれは嫌悪感を演出するためのものだから。
嫌悪感を催さずに熱中して食事を撮る映画はないものか?そう言う意味で、かなり私はこの映画、期待していた。主人公が美食家のレクター。しかも監督がリドリー=スコットと言うことで、かなり凝った食事シーンが登場するのではないか。そのように思っていた(食事シーンで好きな映画の一つに『エイリアン』があるのは事実だし(笑))。
それで最初に小説の方を読む。レクター博士が出てくる3部作『レッド・ドラゴン』、『羊たちの沈黙』と較べ、ちょっと落ちるかな?と言う感じではあったが、映像化したら面白そうな食事シーンが二つあった。一つは無論最後のあのシーンだが、もう一つに、飛行機での少年との会話シーンがある。小説においてはあそこの凝った食事の描写がかなり私は気に入っている。
そう言うことで、かなり期待を持ってこの映画に臨んだ。
流石スコット監督。相変わらず町並みを美しく、幻想的に撮ることにかけては彼を凌ぐ者はない。あのフィレンツェの闇と光が交差する、ヌメヌメとした町並みの描写は見事の一言だった。流石だ。
だが、私が最も期待していた食事のシーンはちょっといただけなかった。と言うより、おいしそうに(あるいはガツガツと)、食べてる描写が全然無いじゃん。これほどの素材を用いていながら、その最高の売りの部分を無視するなんて何と勿体ない。(そんなものに期待するのは私くらいかも知れないけど)
確かに私が観たいと思っていたシーンは形を変えて二つとも入っていた。だけど、例のクラリスとの会食は、クラリスがまともだったためにかなり描写はスポイルされていたし、少年との会話も、最後にとってつけただけと言う感じ。非常に残念。
相変わらずホプキンスは個性派俳優の面目躍如で、怪演を見せているし、全く顔の見分けが付かなくなってしまったゲイリー=オールドマンも、見ていてかなり楽しい。しかし、クラリスをジュリアン=ムーアにしたのはどうかな?ジョディ=フォスターと較べ、明らかにパワー・ダウンしてないか?ホプキンスと並ぶ映画の顔だけに、そこが残念。もうちょっと強い女性を演じられたら良かったのに。
本当に惜しい作品だった。この★4は大甘で。
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