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[コメント] ひろしま(1953/日)

真摯な被爆描写に頭が下がる。本作がアメリカで普通に上映されるようになったとき、もういちど戦争は終わるだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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膝ほどの高さに潰れた瓦屋根を中心に、狭隘を目指した美術が巧みであり(予算不足の回避策としても巧みだろう)、例えばイマムラ映画の広々としたCG描写とは別物、断然こちらのほうが優れている。

屋根から這いずり出る山田五十鈴も、妻の救助を虚しく呼びかける加藤嘉(面会できたのにお父ちゃんと違うと逃げてしまう娘の件が残酷だ)も、大根の芽をみつけて喜ぶ織田政雄も印象的。人的投入もの凄い群衆は凄まじい。そして長い。この長尺が必要なのだと映画は訴えている。ケロイドに膨れた被爆者など、実際はもっと酷かったのを我々は知っているが、もうここまでで充分だろう。伊福部の音楽も真摯だ(音楽を流用した『ゴジラ』は翌年製作)。

とりわけ月丘夢路と生徒らの肩を組んで進むショットは素晴らしく、入水の最期は追悼の高貴が込められ、君が代斉唱に悲哀と皮肉が一時に表出されてある。これは昔の革新系の演劇でよく見られた表現だ。もうそんな演劇も観る機会はないのだろう。

全体はこの回想を挟む形で53年8月当時が描かれる。新藤『原爆の子』(52)と同じ原作に依っており(一緒に撮るはずが、新藤と日教組が喧嘩して別々に撮った由)、エピソードは結構気にせず並置されており、新藤のような巧さはなく、収束は性急過ぎるが構わない。

本作がアメリカで普通に上映されるようになったとき、もういちど戦争は終わるだろう。エノラ・ゲイ搭乗将校の悔恨が冒頭流され、「真珠湾と比較になるか」なる発言もある。とっかかりは周到に配置されてある。物議はむしろ醸されるべきだ。本作はプレスコードが解除されたから撮れた作品だ(ABCCは診断はするが治療はしないとの指摘もある)。

しかしそれ以前に、生徒らが「広島の人にまず知ってもらいたい」と云い、「原爆に甘えるな」なる被爆者非難の風潮があったと記録されている訳で、これには驚嘆させられる(原爆乙女たちはレアケースとある)。「はんぐりー」と発声練習し、建設成った原爆記念碑の前で物乞いする「浮浪児」たち(河原崎健三がいる)が痛々しい。復興の順番はいつも残酷だ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

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