何を差し置いても稀有な俳優武田鉄矢の魅力に尽きるだろう。いわゆる『男はつらいよ』の人情路線を踏襲しておかしくも哀しい喜劇俳優としてのコク、肉体を作り上げる努力に敬愛するジャッキー・チェンへの憧憬を忍ばせたアクション俳優としてのキレ、そして彼独自のパーソナリティからにじみ出る唯一無二の性格俳優としての質が存分に楽しめる。本作にマドンナとして登場する女性は聾唖者の役という設定で、武田鉄矢演じる片山元との淡い恋模様を描きながら、この作品はとても重いものがある。それはモチーフとして扱った身体障害という重さであり、聾唖者役を演じた無名女優の暗さであり、画調が全体的にローキーであるという暗さからも、映画の印象はとにかく重く暗い。そんな最中に、田中邦衛が演じる聾唖者の隣人青年の登場は、その演技のシリアス度からいって実に衝撃的だったのを覚えている。あのシーンもほんとに暗かった。そして、主役の片山は聾唖者同士の出会いの前に、自ら去っていくことになるが、その決心や諦念を無駄な説明や描写で語らぬところがよかった。そこへきて、吉田拓郎が書き下ろした名曲「唇をかみしめて」がエンディングに流れる。このシリーズはほんとうにもっと長く続いてほしかった。確かに３作目以降は映画にダレが出てきたことは多くの人がそう語る通りのものでるが、我が幼少期の思い出に深く刻み込まれている作品として、改めて思い返しては胸を打つ。武田鉄矢の復活を望む。