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[コメント] 彼女を見ればわかること(2000/米)

映画が人生を描いているのではなく、人生の一断片を描いている映画
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







新鮮味はないが新しい映画だと思う。

一つは構成の妙。

最近では『マグノリア』などが有名な群衆劇だが、元来あらゆるエピソードが最後結びついてこそドラマツルギー。観客は「納得!」と胸に手をやる。ところがこの映画はそうではない。例えばあの死体。名前はカルメン・アルバ。全てのシーンで通行人等で出ている。全てのエピソードをつないでいるのは、実は彼女だけ(しかも何の解決もない)。あと幾人かは別のエピソードでも登場するが、全てが有機的に結びついているわけではない。つまり(多少を除いて)全ての登場人物に何らかの関わり合いが「無い」。それが人生。人と人、わずかなつながり、すれ違い。孤独な人々。

一つは人物の見せ方。

人物の性格や環境、背負ってきた人生等々は、通常ドラマが進行するにつれて明らかになる。ところがこの映画は違う。占い師や浮浪者等々を使ってキャラクター設定(脚本家によっては主要人物の姓名判断や血液型、履歴書まで書くという)をほぼ明らかにしてしまう。「こういう状況下で彼女はこんな事を考えています。それでは彼女の演技をご堪能下さい」という作りだと思う。つまりこの映画は女優陣の演技に負う所が非常に大きい。推測だがこの映画の9割は女優が画面に出ていて、そのほとんどがアップもしくは表情が判別できる画面であると思う。 まあ、逆に言えば卑怯だけどね。例えばタモリ倶楽部の空耳アワーで日本語字幕が出るとそうとしか聞こえないように、既に彼女の状況を理解した上で演技を観たらそうとしか見えない・・・とも取れるけど。

にしても達者な女優陣。私はこういう演技が大好きだ。何気ないしぐさ、立ち位置や距離感、そういったさり気ない所で人生や考えの一部を表現する。例えるなら、『レインマン』のダスティン・ホフマンが身障者の真似を熱演しましたってんじゃなくて(随分以前からしつこく言ってる)、『未来世紀ブラジル』のデ・ニーロが弟子入りしてまで配管工の自然な手さばきを演じましたっていう方が(それに何の意味があるんだか不明だが)好きだ。

そう、この映画自体がそういう映画なのではなかろうか。ドラマの起承転結で一つの人生を描くのではない。各エピソードがある人生の一部を切り取っているにすぎない。熱弁でもなく、人生の指針を与えるわけでもない。ただ、いろんな「女」の人生の一断片を提示している、そんな映画だと私は感じた。そして監督のこんな声も・・・

「さあ、後は自分で考えろ。癒されたい症候群の人々よ。どうしたら幸せになれるのか。いや、幸せとはそもそもあなたにとって何なのか。」

(於:平成14年1月2日飯田橋ギンレイ)

(評価:★4)

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