[コメント] エクスカリバー(1981/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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イングランドの伝説上の王アーサーの壮大な生涯を描いた作品。
アーサーと言う存在は文字通りアヴァロンの霧の中にあり、実在したかどうかも分からない古代ブリテンの伝説の王だが、15C中世になってトマス=マロリーにより、伝説をまとめ、一貫した壮大な物語「アーサー王の死」が描かれることにより、一気に世界的に有名になった。
ただ、マロリーはこの物語を描く時に中世の騎士道の理想を見出そうとしたため、極めて中途半端な描かれ方になってしまった。アーサー王をキリスト教の擁護者として、そして同時にドルイド信仰の最高峰に持ち上げてしまったのだ。土地信仰と外来のキリスト教信仰が混在した(そう言えば「西遊記」も道教と仏教の混合だっけ。結構似た部分あるんじゃないかな?)不思議な物語になってしまった。文学的に見る限りは完成度が高く、ハリウッド作品のかなりの数はこの物語をベースとしている程。
その「アーサー王の死」そのものを描いた映画はこれしかない。そう言う意味ではまさしく快挙と言える映画である。(日本ではアニメ作品があったが、これが又、全然面白くなかった)
個々の物語も脚色さえすれば単独で一本以上の映画になるほどのクォリティを持つ(特に騎士の個々の話などは実に多彩で魅力に溢れている。機会があればエッシェンバッハの「パルツィヴァル」などを読んでみると良い)。実際、ハリウッドでは結構類型作品が見られるほど。それ程の凄まじい内容量を持つ作品だ。
だからこそ、そんなものを一本の映画にするためにはかなりの分量を削らねばならない。結局ウーサーとアーサーとランスロット、そしてパーシヴァル位しか中心はいなくなるのだが、それでさえこの映画には詰め込みすぎの感がある。最近での『ハリー・ポッター』や、『ロード・オブ・ザ・リング』を彷彿とさせる。でも、あくまで魔法は付け足し程度で人間のドラマにした所は大正解。SFXもこれで充分。
この映画の問題を一つ。実は岩から抜いた剣はエクスカリバーではない(実は岩から抜いた剣はあっけなく折れてしまう)。ところが、この映画ではエクスカリバーはアーサーの父ウーサー=ペンドラゴンに与えられたことになっていて、それでウーサーが岩にそれを刺したことになっている。これは『エクスカリバー』と言う題に合わせるために敢えて行った改変だと思われるが、それでこの映画が放映されてから、岩から抜いた剣がエクスカリバーであるという理解がなされてしまった。それは誤解だよ。
ちなみにマロリーの「アーサー王の死」ではアーサーは死んだとされていない。エクスカリバーを湖に投げ込んだパーシヴァルが瀕死のアーサーの元に戻ると、そこにはアーサーはおらず、霧の中アヴァロンへと向かう船だけが見えて、終わる(実際アーサーが復活してローマに攻め込むと言う外伝もあり)。
後に押井守が『アヴァロン』を作った際、「勇者の眠る地アヴァロン」と劇中にあったが、まさしくこのアーサー王が眠る地アヴァロンが念頭にあったはず。
子供の頃読んだ「アーサー王と円卓の騎士」の魅力が忘れられず、機会あらば関連書籍を読みまくったため、つい長くなってしまった。でも一度好き放題あの作品の魅力を書いてみたいな。
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