[コメント] ブロウ(2001/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
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【親の責任】
DVD特典で、監督は言っていた。
この映画で描きたかったことは、「親」と「子」。無責任な親に育てられて、子はどうなるか、そしてその子が親になると、どうなるのか。
人格形成に於いて、親が果たす役割とは、確かに大きなものである。何しろ人格の骨格となる部分を形成する3歳時頃までの影響力の殆どは、親が担っているといっても過言ではないのだ。
しかし、人間とは、そもそも真っ白なキャンバスであり、そこに親や周りの環境が絵を描いているかと言うと、そうとも言いきれない部分がある。この問題を議論すると、人格の遺伝由来などにも発展するが、ここではとりあえずそこまでの議論は必要ないと思われるので、「人格は生後に形成される」と仮定して考えてみる。
例え人格が生後の環境で形成されるとしても、まず疑問に思うところがある。「真っ白なキャンバス」であるかと言われれば、そうではないということである。キャンバスに絵を描くのとは異なり、絵筆で、思いのままのものをそこに作り出すということは、親と子という人間関係においてもあり得ないのだ。
教育しようという心がしっかりとあったとしても、それがどのように子供に伝わるか、そして、どのような人格になるかというのは、思い通りに行くものではない。「誠意」を持って接したからと言って、それが「誠意」として子供の人格に描かれるかと言えば、そうでもない。また、「無責任」な態度で親が子に接したからと言って、「無責任」が子の人格に描かれるとも考えられないのである。
序盤からの「親がこうだったので、こうなった」という、あきらかに責任転嫁をしている話の作り方に、かなりの違和感を感じた。
どのような親に育てられようと、しっかりとした人生を歩む人間は、自らの手で人生を切り開き、まっとうな人生を歩むものであろう。
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【ジョージ・ユングの行動】
まず、麻薬の密輸という行為に対する、「罪悪感」というものが全く無いと思われる。もし、ユングが最も愛した娘、キャサリンが悪友の勧めでコカインを吸い込み、急性中毒で死亡したら、彼は何を思うだろうか。
彼は全く分かっていない。自分のしていることが、どんな結果をもたらしているのか。彼の運んだ麻薬で、人生を踏み外し、死に至る人間。特に判断力の無い若者をどれだけ不幸に陥れたのか。そのことを全く分かっていないようだ。また、脚本も、全くその点には触れていない。
「ジョージ・ユングの視点で描きたかった」「第三者が語るジョージ・ユング像は興味が無かった」という監督のわがままは、犯罪行為をまるで犯罪行為でないかのような描写にしてしまっている。
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【映画がジョージ・ユングに与えたもの】
ジョージ・ユングは死ぬまで獄中で過ごすことになる。罪を犯した報いとして当然である。もっと重い罪で良いと思う。
孤独で、娘も(当然)面会には来ず、じっと死を待つ。そのはずだったのだ。
この映画がなければ、、、
この映画を作ることによって、ユングを訪れる、監督、役者、様々なメディア。
一瞬にして、犯罪者は人気者。
そして、世の中には、「ジョージは悪くなかったんだよ、まわりが悪かったのさ」
と誤解する人々を生む。
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【そして最後におまけ】
多くの方も指摘している通りに、最後の下腹メイクはショボイ。ショボすぎる。コントに出て来る志村けんみたいだった。あれはもうちょっと何とかして欲しい。笑いを取るところではないだろう。
ラストに出て来たジョージ・ユング本人の写真の効果はあった。
だが、DVD特典で、インタビューに長々と答えるジョージ・ユングは、あの写真よりずっと元気そうで、開き直っていて、ひょうきんな男だった。
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