[コメント] ブロウ(2001/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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代わりに、少年の目に映ったのは、自分の父親が10年間、週に7日、1日14時間働き続けた挙げ句に破産したという不条理のみだった。少年には、父親の好きなものが解らなかった。少年に解ったのは、自分が嫌いなものだけだった。――金のために歪む家族関係
社会道徳の観点からユングのしのぎと半生を批判しようとしない映画のスタイルを糾弾したい気持ちは、俺にもある。だが、一方で、上記した数字を想像すると、俺だったら、そんな不条理を前にして社会の規範をまっとうに身に付けることができただろうか?という疑問が頭をもたげる。…だからと言うわけではないが、そこだけで、この映画を斬ってしまうのには、かなりの違和感を覚える。
正直言って、俺は、臆面もなく感動してしまったのだ。
前半では、主人公がさっぱり解らなかった。ただ、主人公を囲む親や(死んでしまった)恋人の群像ばかりが精彩に見え、主人公の行動原理だけがまるで理解できなかった。それは、そうだ。理解するも何も、何も無かったのである。“好きなものが無く、嫌いなものだけだった”主人公の人生は、文字通り、空っぽだったのだ。だからこそ、さらりと描かれていたが、恋人の死がとても切なく感じられた。彼女の死が、彼の空っぽをさらに大きなものとしたのだ。
ところが、そんな主人公の空っぽが、娘の誕生によって、突然埋められる。そのできてしまった大事なもののために、主人公は変わろうとする。だが、自らの業故に、結局は失ってしまう。そして、主人公は、10年間、週に7日、1日14時間働き続けた挙げ句に破産した父親が、何故、「金なんて幻さ。大事そうに見えるだけだ。」と言い切れたのかを理解する。そう、金が無くとも、息子=自分がいたからだ、ということを。
この一点のみだ。実際には、どうだったとか、こうだったとか、はっきり言って、どうでもいい。俺はドキュメンタリーを観たかった訳じゃない。映画を観たかったのだ。そして、このたった一点を描ききったことで、この映画は、ゴミクズの様な人生をほんの一瞬だけだがダイアモンドに変えるという映画にしかできない奇跡を起こしたのだ。俺は、そう信じる。
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