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[コメント] 探偵物語(1983/日)

薬師丸の小娘ぶりは概ね鬱陶しいだけで、推理物としても何の面白味も無いが、三流ミステリらしい好奇心で首を突っ込むヒロインが、真相究明の過程の中で大人の世界を垣間見る様が主眼の作品。
煽尼采

**ネタバレ注意**
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冒頭の薬師丸が自邸の窓から忍び込む行動から始まって、閉じられた門を乗り越える、ラブホテルのシャワールームの天井から換気口に侵入する、といった、非正規なルートから出入りするアクションが、作品の肝。探偵行為を通じて性の世界を垣間見る、という彼女の二重の冒険を端的に視覚化してくれているわけだ。ラストシーンでも、空港の下りエスカレーターを逆走して松田優作の許に向かうという形でそれは行なわれる。

反面、松田は大人の男としてのうらぶれた様子ばかり見せ続け、その影のある姿に薬師丸が自然と惹かれていくことの必然性はよく分からない。薬師丸がアメリカに旅立つ直前で、行ってしまえばそのまま日本に帰ってこないかもしれないというタイムリミットも、いまひとつ効いてこない。これは、長回しや引きのショットで対象を捉える手法が、薬師丸らの内的感情に迫ることを控えていたことの結果だろう。長回しの方は空気感の醸成に一役買っているが、構図のしっかりしたカメラに遊びが無いのは、青春の瞬間的なきらめきを捉えるには少し大人に過ぎた観がある。フィックスの美学は良いのだが、それならヒロインもそれに見合ったキャラクタリゼーションが必要。撮られる者と撮り方とが噛み合っていない。小娘の小娘ぶりを距離をとって捉えることでその成長過程の瞬間を記録しようという意図なのかも知れないが、その大人の目線に何か要らぬ厭らしさを感じさせられたのも確か。

謎解きは、単に「どこから犯人は侵入したか」という一点のみに依存しており、犯人が誰か、その動機は何か、という点はハナからバレバレである。それよりも例えば、憧れの先輩から薬師丸が貰ったお揃いのネックレスが、貝とナメクジとを合わせてデンデン虫に出来る形状をしていることと、松田を逆尾行した薬師丸が彼と飲むシーンで、松田が注文するのがエスカルゴ、つまりデンデン虫であること、更には、真犯人である女子大生がこのシーンでバニーガールとして登場すること、彼女が例のネックレスをしていること、これが換気口で見つかることで真相が解明されることなどの意味性の方が、作品の主眼なのだ。つまり、薬師丸のロストバージンの相手になるはずだった先輩との間に、この真犯人の女性が子どもを作っていたという真相による、予め奪われていた「大人の世界」。そして、ロストバージンを妨害した松田は、落とし前としての空港での濃厚なキスで薬師丸を送り出す。

薬師丸の父と不倫関係にあるらしい岸田今日子が、ヤクザたちによって人質にされた後、松田の妻と交換されるくだりなど、この二人の女性が薬師丸にとって、大人の女の世界を覗かせる存在として等価であることを感じさせる。共に、父、乃至は松田という、薬師丸の愛情の対象であるだろう男性と、男女の関係を結ぶ存在なのだ。彼女らへの、反撥と共感のない交ぜになったような薬師丸の曖昧な在り方は、彼女の成長過程の断面だ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)小紫 3819695[*]

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