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[コメント] 砂漠の鬼将軍(1951/米)

アバンタイトル部でのアクションによるサスペンスフルなストーリーへの引き込み、原作者の登場から主役の初登場にいたる流れの手際、水際立った簡潔さに煌く会話、将軍や政治家たちのキャスティング、どこをとっても引き締まり、知性と緊張感に満ちた作品。
ジェリー

 戦争映画として鑑賞するよりも伝記映画として観たほうがずっと入りやすい。ロンメルという人物を、原作者と脚本家が緻密にディスカッションしながら再構築していった過程まで見えてきそうだ。ナナリー・ジョンソンとしても最高の成果の一つであろう。

 英国軍将軍に国際法違反の行動を押し付けるドイツ軍中佐を制し、無造作にサンドイッチをほおばり水筒の水を飲むシーンからスタートするロンメル元帥を演じたジェームズ・メイソン をまず褒めるべきであろう。軍人演技の生命線とも言うべき立ち姿に対する俳優としての教養をここでは見よう。ロンメルが怪物政権の元で軍人である事に徹しようとしてそこからはみ出さざるを得ない動機は、エル・アラメイン戦線での指揮命令ぶりのエピソードをぽんと一つ挿入していることで完璧な説得力を持った。ロンメルの類まれな戦況判断力が地図を広げて簡単な指示を与える1分にも満たないシーンによって示され、映画に生命が吹き込まれた。簡潔な一言一言は、言動に揺ぎ無さと深い経験があることを判らせる。

 次に、他の俳優たちであるが、エンディング近くでロンメルの私邸を訪問するブルグドルフ( エヴェレット・スローン)、老いた英雄フォン・ルントシュテット(レオ・G・キャロル)、ヒトラーの側近カイテル(ジョン・ホイトただし、クレジットされていないが)それぞれの将軍たちの抱いている政権への見識がそれぞれに様々である事をしっかり分からせる演技や、ヒトラー総統の偏執性を背中の姿勢と手の動き一発で表わしたルーサー・アドラーの演技で、このドイツという政治=軍事複合体の不可解さが象徴的に言い切られている。(それがロンメルの見識の正当性の肯定も暗示する) 

 セドリック・ハードウィックが、登場シーンこそ決して多くはないが反ヒトラー派の政治家(シュツットガルト市長)として、忘れられない演技を見せる。粒立ちのよい口跡により、市長が自信に満ち、ロンメルに対しても強い影響力を持ちうる、容易ならぬ周到さをもった人物であることがよく分かる。

 こうした歴史の舞台に登場する以外の人物もそれぞれ好演である。ロンメルの妻を演じたジェシカ・タンディの芯の強さと優しさ、ウィリアム・レイノルズ演じる息子マンフレッドの父への敬愛振り。ここまでにしておくが他の俳優も褒めたい。一人一人の造形が揺るがないので、骨格がしっかりした映画になる。

 しかし、この映画は演技の映画だと言い切ってよいわけではない。時折さしはさまれ、屋内のシーンの緊張感をいったん開放し、刺激的な運動感を画面に持ち込む戦争シーンのもつ間合いがよい。(昨今、これらを緻密に再現する戦争映画が増えたが、ここでは実写を大胆に使う) 将軍や佐官たちが話し合う屋内において必ず閉じられそして空けられるドアへの演出上の配慮が良い。ドイツ軍の構築する前線兵站部のコンクリート壕や大砲の連なる要塞などプロダクション・デザインが良い。ロンメルが革のコートを着たときのキュッと鳴る音が美しい。

 最後に、複雑な要素を総合し持って回らずに簡潔に表現しきった監督を讃える必要がある。このような大胆さは、ヘンリー・ハサウェイの職人技といえるセンスの手柄として評価されるべきである。脚本をしっかりと尊重した謙虚さもまた。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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