[コメント] ヴィドック(2001/仏)
画面から血と汗と路地裏の匂いがした。稲光に目がくらむ錯覚を覚え、雷をこの身体で感じ、雨の降り始めの湿度さえも感じた。すごい映像体験をさせてもらった。
いや〜、疲れた。 あんまり疲れたので、スタッフロールが出てきたときには「ほーっ」と深呼吸をしてしまった。 映画を観てこんなに疲れるのは、私の場合、私的映画史上かなり上位に入る作品だけである(たとえば、『羊たちの沈黙』とか『Uボート』とか『愛と哀しみの果て』とか『スターリングラード』とかである)。この事実だけで私はすでにこの映画を私的殿堂入りに決定した。 だって本当に、画面から匂いがするのだ。この時期のフランスといえばマリー・アントワネットとか太陽王とか、豪華で美しい花の都のイメージが先行しがちだけど、街中はかなり衛生状態が悪かったらしい。そういった面をそのまんま描いてなおかつ全体の色調が油絵のような厚みと粘っこさを感じさせる。花びらや鳥の羽毛のような軽やかな美しさはない。非常にゴシックを感じさせる重厚な美しさ。それがこの映画の一番衝撃的だったところだ。 ねこすけさんのあらすじを読んで、このピトフという監督がビジュアル系のキャリアのある人だと初めて知った。うんうん、と深く納得した。
あとですねー、この映画を観た後の疲労感そして満足感は、画面の完成度の高さのみにあらず、そのストーリーの描き方にもあると思った。回想シーンをパッチワークのようにつなぎ合わせることで、作品にミルフィーユのような多層構造が生まれ、その層と層との間はくっついているのではなくて、ふわふわと空間があるのである。その空間は観る者にとってその時代を感じ取るのに必要なギャップなのである。 いや〜ほんまによかったです。
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