[コメント] 息子の部屋(2001/仏=伊)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
以前のReviewを書いた後にも、時々この映画について考えていた事を追記します。
***********以前のReview****************
以下、非常に個人的な想い出。
そっくりな家族に去年('01)の春に会った。話には聞いていたけど実際には初めて会う両親にしっかり者の妹。映画と同じようにのどかな港町だった。あちらも私を見ただけですぐに判ってくれた。とりあえずその日は、宿泊先までお父さんが車で送ってくれた。この街の良さを教えてくれていたが、ポツリと「生き甲斐をなくしました」と言っていた。妹さんは両親を支えようとかえって一人しっかりしていたようだった。
棺が開いているうちは家族が周りにいたので邪魔しないように遠慮していた。でも閉める瞬間はたまらなかった。少し待ってもらって髪の毛を撫でさせてもらった。閉めたときに初めて、本当に死んでしまったような気がした。
その日から彼の死が私や彼の家族の中で始まった。始まったばかりでおそらく全員が戸惑っていたが、1カ月後に東京の部屋の荷物をかたづけに上京してきた家族に再会したら、少し元気になっていた。いろんなエピソードを聞きたがっていると思い色々話したが、楽しい想い出話に4人で笑ったあと「私はあの子のこと何も知らなくてねぇ」とお母さんは涙ぐんでしまった。持ってきた写真は数枚見ただけで、今は見る事が出来ないとしまっていた。
私は親友だったけど、他にも友達がいたので家族より早く立ち直っていた。それがあの家族に悪いような気がしていたが、この映画のアリアンナと同じ立場なんだと思う。
この映画をもし一昨年観ていたら、また違う視点で観たのだろうか。とにかく近しい者の死とあの家族を知ってしまった後だから、ただの物語とは思えない。もしかしたらこの映画は全ての人に向けたものじゃないのかも知れない。
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涙もろい自分も、さすがに映画館では恥ずかしいのでポロッとぐらいしか泣いたことはない。しかし息子が死んだシーンから、不思議なくらい涙が勝手に流れて止まらなかった。少したって止んでも、主人公と同じようにフトした事でまた涙が流れてしまう。特にどのシーンに反応したからでもなく、ただ勝手に流れ続けてしまう。
基本的に登場人物が死んだからといって泣かせる映画への評価は低い。絶対にそういう狙いで泣かないぞ、と思っている。それよりもハッピーな気分でいっぱいなラストシーンの方がずっとウルッとくる。何故か楽しいSFコメディ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のラストシーンは何度観てもウルッときてしまう。
ではこの映画で流した涙は映画への涙じゃないのだろうか、実生活と重ね合わせて感情移入しすぎただけだろうかと悩んだ。実はそれがまだよく判らないけど、確かなのはこの映画が似た経験をした者に非常に優しく、そっと寄り添うような映画であることと、またそういう人が観るとこの映画は非常に既視感を覚える場面や感情でいっぱいであること。
ラストの親子の姿の捉え方はいろいろあるみたいだが、自分はあの3人は現実をとり戻したのだと解釈している。家族が死んで日常が一変した、もう何を見ても以前のようには見えない、全てが変わってしまい二度と元に戻らない、父親は「私は過去に戻りたいんだ」と訴える。しかし息子の記憶を持ちながらも自分たち家族とは全く違うように見える少女と出会う。それまで息子と全く無縁だった人々と関わっても、かえって誰にも判らない自分たちだけの悲しみを実感して閉じこもるばかりだった3人が、息子の死を現実として受け止めて前に進んでいく少女を知ることで、息子の死とのつきあい方を教わり、全て変わってしまったかのように思えた以前の世界を少しずつ取り戻していく前兆に見えた。別れ難くて予定よりずっと遠くまで少女たちを送った車の中、息子が死んだというのに妻と微笑み合った。少女を遠くまで送りたい=自分から何かをしたい、と思えるようになったのも息子の死から初めてだった。その感覚が懐かしくて、いつまでも走り続けたかったのじゃないだろうか。
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