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[コメント] 息子の部屋(2001/仏=伊)

アンドレア(ジュゼッペ・サンフェリーツェ)は、親離れしようと、羽をばたつかせている雛鳥だった。
kazby

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







親とのふれあいよりも、友達との約束が、だんだん大切になってくる年頃。 親に秘密を持つようになる年頃。 何を考えているか分からなくなる年頃。 分かってはいても、なんとなくさびしい思いを抱えている父親(ナンニ・モレッティ)。 化石を盗んだのは、いつまでも父親に愛されるいい子でいるわけにはいかない、少年の、ちょっとした反抗心のあらわれだったんじゃないかと思う。 そのことを結局父親には言い出せず、母親(ラウラ・モランテ)に、告白する少年の複雑な思い。

ところが、みたところ少しも珍しくない、ほぼ健康な親子の営みが、息子の死によって、突然ぶつりと断ち切られる。 あの日、あの患者の往診を断っていれば...と自分を責める父親(確かに、事故は防げたかもしれないけれど、息子はよろこんで、友達と潜りに行ったのだ)。 脳のどこかで永遠の別れだ、と命令していながら、体がそうと受け入れられないつらさが胸を締め付ける。 それが普通なのに、精神分析医という職業柄、そうした自分の不安定さに危険を感じ、休業を決意するにいたる。 患者の中に、彼の休業を知って、なりふり構わず、爆発する青年が登場するのだが、この青年をむしろ、うらやましいとさえ思っていただろう。 そして、すこし、バラける家族。

息子に、好きな子がいたらしいことを知り、父親は、それを知らなかったことでまたもや落ち込み、反対に母と娘は、ちびっこと思っていた息子の/弟のなかに男を発見したようで、なんだかうれしい。 そこへ、相手の女の子アリアンナ(ソフィア・ビジリア)が、訪ねてきたことで、ついに固まっていた父親の心が動き始める。 ほとんど表情を変えず、口数もほんとに少なかったあのコが、女の子に送るために、自分の部屋でおどけて写真をとっている。 それをしみじみ眺めて、それが、”息子の部屋”っていうような物理的なしきりでなく、息子が大人として、もはや自分の立ち入れない世界を持ちはじめていたことを思い知ることで、つらすぎる別れを乗り越えるきっかけが、やっと訪れたようだ。

静かなタッチで、派手な盛り上がりがおさえられている分、特に観終わった後にあれこれ思い出し、思わず涙ぐんでしまう、素晴らしいドラマだ。 ときに、このアンドレアとアリアンナの表情の乏しさは、私には、もうひとつ踏み込めない”他人”みたいなものを思い起こさせ、この映画をより味わい深くしている。 それに、気のせいか、この監督の女性に対する尊敬のまなざしを感じる気がして、一層心が温まるようだった。登場する女性達はみんな、強くてしなやかで、美しかった。

ただ、先日散髪したとき、何気に”クロワッサン”誌のレビューを少し読んでしまったことをちょっと後悔した。

(評価:★5)

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