[コメント] マルホランド・ドライブ(2001/米=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
どんなにパズルのピースを嵌め合わせたところで、そこには隠された大きなテーマが浮かび上がることはない(強いて言えば「愛」ということらしいが)。個々のピースが印象的なカタチで目に写るとはいえ、それらに象徴的な意味などはなく、ただ悪夢の空間の入り口を開く装置として機能しているように思える。泣き女は素晴らしい歌を奏でるために登場したと見せかけて、実は空間のねじれに誘い込むための、まやかしの道具でしかないのと同じで。
そしてねじれた物語には本当の意味での答えなどなく、ただその悪夢の世界に観客を迷いこませるための回路、言ってみれば冒頭の曲がりくねった道のようなものである。
しかしその悪夢というものの曖昧な質感へのこだわりに、リンチは細心の注意を払ってみせる。例えばカメラ。特に派手な動きをするわけでもないのだが、時折みせる曖昧さ(揺れや焦点のボヤけ方など)。まさにこれ以上はっきりしても、これ以上曖昧になっても成り立たないところで針を合わせてくる。そのセンスが素晴らしい。くすんだレトロな日常のなかでの、非現実とも思えるほど鮮やかな記号の散りばめ方も然り。そして音楽。この映画の世界でのフィフティーズのナンバーは、奇妙な明るさとして機能している(老夫婦の笑顔と感覚的に近いような)。唯一ハッキリした印象を与える二人の女の愛憎劇も、結局はこの悪夢の世界の中に湿度と熱を送り込むための装置にさえ思えてくる。
ともあれこの映画は芸術というよりも玩具である。精巧に作られた贅沢な玩具。この映画自体が空間を捻じ曲げるために用意された青い箱とも言えるが、万人に開けられるわけではなく、「悪夢」を嗜好する目と耳と舌を持つ人間の手の内にのみ、カギは存在する。
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余談1:ちなみにこのパズル、未だうまくはめ込めません。元来注意力散漫故に、「あのシーンは何?」「あの人物は誰?」みたいなのが多くて困りモノ。もしかしたら初歩的な質問なのかもしれないので恥ずかしいのですが、是非教えていただきたい。ファミレスで夢を語ってた男の、夢のなかでカウンターに立ってたという相手の男って誰なんですか?
余談2:銀座シネパトスにて鑑賞。天井の上を列車が走っている、劣悪な環境の映画館。見始めのころは、その走行音に悩まされていたのですが、しばらくすると映画の中の心音まがいの低音BGMと、「ゴトン、ゴトン・・・」という低くくぐもった響きが妙にハマる瞬間があり、意外や意外の思いがけない相乗効果。でもって、鑑賞後にふと都内でもかなり積極的にホラー映画を上映する館であることに気付き、もしかしたら劣悪な環境を逆手に取って確信犯的プログラムを立てているのだろうか、などと要らぬ興味が湧いてきました(全くの余談)。
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