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[コメント] ハッシュ!(2001/日)

人と人の関係性の変化を丁寧に描きつつ、その変化の動因は強引に設定されている。たとえば、田辺誠一高橋和也が付き合い始める描写は省略され、片岡礼子は「父親になれる目をしてたから云々」といいかげんな理由で田辺に接近する。あるいは秋野暢子らを招くことになるつぐみの行動。光石研の顛末。
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**ネタバレ注意**
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別の云い方をすれば、橋口亮輔の時間感覚・時間配分の妙か。印象的な長回しのシーンを適宜配置しながら、一方で観客に対しては不親切と云ってもよいほどに劇中時間は各所でぽんぽんと飛ぶ。こうした時間の連続感と飛躍感の按配が田辺-高橋-片岡の関係性変化のダイナミズムを支えている。彼らの仲が急速に深まっていくさまを描いていたのが、斉藤洋介山中聡らのコメントを挟みつつボウリングや玩具屋での芝居をクロス・カッティングした(すなわち、時間が連続しつつ飛躍した)シーンであったことにそれは顕著だろう。

また、一般的には冒頭部に表示されるべき『ハッシュ!』のタイトルはラストシーンの後になってようやく現われる。それは全篇がアヴァン・タイトルだと云うこともできる。「三人の」物語は映画がラストシーンを迎えてから始まるのだ、ということ。三人の関係性を肯定しているであろう作家だが、それが万人に受け入れられるものではないだろうこともまた知っているはずだ。だから、ただ「いずれにせよ、彼らの物語は今から始まるのです」とだけ告げて映画を終わらせる。その態度を誠実と呼ぶのか無責任と呼ぶのかは知らない(……というのは―もちろん云うまでもないことですが―タイトルが最後になって現われることについての解釈のひとつです)。

 高橋の部屋の壁に貼ってあるポスターは一九五六年のSF映画『禁断の惑星』。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)jollyjoker DSCH[*] ことは[*]

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