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[コメント] 暗殺のオペラ(1970/伊)

濃密な「だまし絵」的空間。4.5点。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







現実を凝視し過ぎて、気付くと非現実的な世界に転じてしまう、そんなまやかしの危うさに満ちている。ストラーロの映像もひたすら美しい映像を切り取りながらも、スイカや赤いスカーフといった所々に点在する「赤」や、時に迷路のように見える整い過ぎた構図を見ているうちに、次第に空間は夢のような非現実味を帯びてくる。

オペラの舞台上での暗殺劇が、現実で起こっている裏切り劇とシンクロし、しかもその裏切り劇自体が芝居じみたものであると知った瞬間、劇のなかに現実が取り込まれる。

アンチファシズム運動に支えられてきた村に思えながらも、リーダー格の人間(父)の仕組んだシナリオを全て知りつつ、いわば実態の伴なわない英雄崇拝を続ける村人たち。そしてそれらの父の仕組まれたシナリオを知った瞬間、まるで父の存在に取り込まれるかのように村を出られなくなってしまう主人公(待てどもこない列車を待つ姿と、あたかも長い間列車の通った跡を見せないかのような、草が絡みつくレール)。そしてそのラストシーンを見終わった後に感じるのは、この物語自体が現実の世界の出来事なのだろうか、ということ。

どこか砂を噛むような思いにかられる、非常に説明がしづらい映画。現実や写実といったものが、実態の伴なわない夢幻的な空間に取り込まれる映画だとは思うのだが、そんなコメント自体も書けば書くほど確かな手ごたえを失っていくように思えるところが、何ともクセモノ。全てが作り手側の策略だとしたら、敬服せざるを得ない。

(評価:★4)

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