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[コメント] 戦場のピアニスト(2002/英=独=仏=ポーランド)

じんわり迫る恐怖。破壊された街。詩のような悪夢。2007.06.08
鵜 白 舞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







誰もいない廃屋、それも夜の闇の中で、缶詰を開けようとする主人公。羅生門の老婆を思わせるような不気味さだ。

そして缶詰が開かない。少しコミカルに開けようと奮闘する主人公を見て心が安らぐがその矢先、缶詰が転がった。ころころと転がった先には靴が。この描写にどきりとさせられる。誰かがいるのだ。恐る恐る見上げると、ナチス。ここで主人公は声をあげたりしない。恐怖で声も出ないのだろうか。音楽で煽るようなこともしない。それがより背筋を凍りつかせる。ああ時間的にも、もしかするとこの主人公はここで運がつきてしまうのかもしれないと想像をたくましくしてしまう。

その後のシーンがピアノのシーンだ。月明かりだけを頼りに埃を被ったピアノを弾く。 華やかな世界で多くの聴衆に乞われて演奏していたピアニストが、薄暗い廃墟で命を狙う相手に命令されてピアノを弾く皮肉。 この世で最後の演奏になるかもしれない、弾きながら殺されるかもしれない、いや、もしかするとこの演奏で救われるかもしれない。どんな思いでピアニストはピアノを弾いたのだろう。最後になるかもしれない曲になぜその曲を選んだのだろう。悲劇も恐怖も感じさせない、ただただ綺麗な曲だった。

そしてこんな絶体絶命の場面でも、主人公は缶詰を放さなかった。生への恐ろしいほどの執着を缶詰を持つ震えた手が物語っていた。

・・・

ナチスが残虐なことをしてユダヤ人がひどい目にあった、というのは知っていた。戦時下でピアノを弾く話だというのも知っていた。しかしストーリーだけでは語りきれない映像の衝撃がある。すごい映画だ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ジェリー[*] けにろん[*] 死ぬまでシネマ[*]

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