[コメント] 戦場のピアニスト(2002/英=独=仏=ポーランド)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
まず、CGで描いた廃墟のシーン。特撮ファンの自分には、このシーンがいかに駄目かよくわかる。大袈裟な特撮映画など全く信用していなさそうなポランスキーが、そう言った映画を否定するように、前半、ドキュメンタリー・タッチで綴ったくせに、あのシーンでは手の平を返したようにCGに頼る。必要悪で使いましたとでも言いたげに。必要悪ではなく、ご都合主義であり、怠慢だ。あのシーンのCGの完成度が云々ではなく、絵作りに対する一貫性の無さが滲み出てしまっている。最後まで実写にこだわるか、見劣りしないシーンにしたかったら少し特殊技術を勉強してからやるべきだ。
次に、件のドイツ人将校の前での独演シーン。物語からしか映画を語れない自分には、このシーンがいかに駄目かよくわかる。主人公が活躍する、つまり明確な物語性を持った戦争映画など全く信用していなさそうなポランスキーが、そう言った映画を否定するように、前半、ドキュメンタリー・タッチで綴ったくせに、あのシーンでは手の平を返したように物語性を噴出させてしまう。ピアノの音色が将校の共鳴をフィーチャーすればするほど、前半のフラットなトーンを忘れさせ、観る側に劇的な転調(要するに、主人公と将校の関係と顛末を語りきること)を期待させてしまっているのだ。にもかかわらず、その尻拭いをせずにトンズラ決め込む欺瞞について一々説明すると――
相当な人格者と思われた将校は命乞いをする凡俗の徒に堕し、あれほど下手にまわり将校に感謝していた主人公はカンダタを見放したお釈迦様の如き立ち位置を獲得する――こんな性急な変節を、作家の思惑通り、戦争の現実、人間の真実だなどと鵜呑みにしたり、さらりと流した演出だなどと納得してはいけない。
仮に事実がこれだけのアクション、これだけの言葉で語られる程度の現象に過ぎなかったとしても、そこには主人公の膨大な想いが隠されていたはずである。というより原作者は物語を綴るに当たり、現在から過去へ回帰していく行程を辿るべく、まずこのドイツ人将校に対する想いから始めたはずなのだ。ところが演出家は原作者の行程を逆行した挙げ句、原作者と物語のモチーフを全く追求せず、強引に終わらせてしまった。表層的には天辺少しが欠けているだけのように見えるが、本質的には土台が抜け落ちた砂の城である。崩してみれば、戦争と平和という対極的な状況下におけるピアノ演奏シーンを撮りたかっただけという、演出家の至極身勝手なモチーフが露呈するのみだ。
とはいえ、その撮りたかったシーンや前半は見所だった。ベートーベン=ドイツ人が作曲した月光に、ユダヤ系ポーランド人の孤独を象徴させる等の奥ゆかしい意匠も見えた。
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