[コメント] ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(2001/米)
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想いは飛び去り、また還る。想いの象徴である鷹「モルデカイ」の帰還シーンをジーン・ハックマン、ルーク・ウィルソンが見つめるシーンが本当に素晴らしい。二人の人間がそれぞれの思いを胸にして同じ物を見つめてる、っていう画は本当に美しいと思います。
この物語の主人公達は、みな「我慢」の表情を終盤まで貫く。ジーン・ハックマンの軽佻浮薄、アンジェリカ・ヒューストンの微笑み、グウィネス・パルトロウの厚化粧、ベン・スティラーの眉間の皺、ルーク・ウィルソンのひげ面、オーウェン・ウィルソンの滑稽な服装。それぞれがそれぞれに課された「役割」(「天才」はこの言葉に置き換えられるだろう)と「汚れっちまった悲しみ」に平気でいることを偽ることに「無理」をしていて、その「無理」の表現の痛々しさや奇矯さから、結局隠しきれずに「泣きたい」「仲直りしたい」「解き放たれたい」といった感情がにじみだしてしまう。この「にじんでる」感じ。素晴らしいと思う。
見た目がドライかつクール、さらに「おしゃれ」で奇矯であればあるほど、それは逆に「不器用」な想いの丈を助長していることに気づく。だから、「我慢に我慢を重ねる」不器用な主人公達をひたすら見つめさせたあとでベン・スティラーが「我慢の限界」のはてに「つらかったんだ、父さん」の一言を漏らすシーン(このシーンのシチュエーションの意外さ!)は文句なしに効果的で、ベタとみる向きもあるとは思うけれど、私は「我慢」できませんでした。泣きました、ホント。俳優のMVPはベン・スティラーということにしておきます。ファンの中ではあんまりウケがよくなさそうですが。クレバーさを見せつけてしまったからですかね。 でもパルトロウも捨てがたいしな、っていうか捨てるところがない。凄いわ。
「最終的には、人間、優しさがないと生きて行けないんだよ」というメッセージはどちらかというと苦手で、逆ベクトルに向かう映画をうひうひ笑いながら観てることのほうが多いのですが、この「クソ素晴らしき世界」って雰囲気にウエットなメッセージを乗せて辛辣ながら微妙に柔らかいところに着地すると完全に負ける。『ホテル・ニューハンプシャー』(原作)と『ビッグ・フィッシュ』に並ぶアメリカン家族モノです。宝物。
ところで冒頭でキューブリック先生を引き合いに出した要素はどこかというと、ぐぐっと高速で寄るズームアップとスローモーション、横に流れるカメラです。これ、非常に使いにくい技法だと思うんです。特にズームアップについては実践する監督も少ないですし、どちらかというと「バカっぽく」見えやすいと思うんです。アルトマンですら微妙に見えることがあります。しかもいずれも非常に大きな空間が必要なカメラワークであり、無駄なものが見えないように道具の配置やらロケーションやらなにやらに異常なエネルギーとセンスを必要とするんではないかと、専門知識がゼロなりに推測するのですが、監督が望まない形で「見えちゃった」感のあるいい加減なオブジェクトが「一つもない」というのは大変なことだと思います。これは3819695さんが指摘されてる全くその通りだと思うのですが、この監督は『ダージリン急行』や『ホテル・シュヴァリエ』でもこういった技法を意識的に使ってます(『ライフ・アクアティック』未見。これこそ観ろという声が聞こえてくる・・・)。ものすごくエネルギッシュな、というかパラノイアなこだわりのある監督だと思います。楽曲センスもいいし。凄い人だと思います。
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