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[コメント] Dolls(2002/日)

幽霊噺(注意、レビューは冒頭から本作ラストの展開に言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公の二人が死ななかったところで、おっ、と思った。北野作品のいつもの展開だと、死に至るまでのプロセスが描かれるのだと思っていた。

しばし考え直す。二人はすでに死んでいたのではないか。だから言葉を交わすこともなく、ほうぼうを徘徊していく、まるで幽霊のように。そして、彼らが姿をあらわすところ、そこには彼らと同じようにすでに生を終えてしまい、死んだように生きている人たちがいた。その意味で本作は、死のあとの茫漠とした世界を舞台にした作品といえるかもしれない。

また、死後の世界を呼び起こすエピソードとして、自殺未遂、自動車事故、ビルでの暗殺劇などが背景に置かれているが、特徴的なのは、このエピソード自体が登場人物たちの「死後の徘徊」の直接の原因とはなっていないところだ。結婚式での西島秀俊、銃撃戦を闘う前の三橋達也、強力なライバルと精神的に競いながら(やがて、その競いは血の惨劇に至る)追っかけを続ける武重勉、彼らの眼はすでにどこか虚ろだった。そういう意味でも彼らがいつ「死んだのか」はそれほど定かではない。ただ一つ確かなのは、彼らはすでに死んでしまい死後の生を徘徊していたことだけである。

このような読みをしたわけだが、実はそれほど本作については高評価ではない。北野武は数少ない、新作を劇場でリアルタイムに見続けている監督なのだが、テイストはそれほど変わらないなかで、途中で挿入される暗喩のようなものが、以前に比べて大味なものになってきている。むろん作風に信頼を寄せて観ているわけだから、新展開などは必要ないのだが、大味になってきているぶん食えない部分が少しずつ増えてきている。極私的な言い方だと、オアシスの作品を旧作から新作まで時系列的に聴く(悪いとまでは言えないが、次第に退屈感が増す)のと似た感覚。

(評価:★3)

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