[コメント] HERO(2002/中国=香港)
映画を見終った人むけのレビューです。
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既に他の方々も仰られている通り、謁見から回想へと流れる構成は『切腹』を、三種類の異なる回想は『羅生門』を、そして突き刺さる矢の群は『蜘蛛巣城』を思わせる。
『切腹』『羅生門』を思わせる部分については、其々ミステリサスペンスの常套手段ではあるし、東洋独特の「間合い」の概念を取り込んだり、段階毎に色調を統一するなど、新味充分であるから、これは気の効いたオマージュであると云わねばならない。
ただ『蜘蛛巣城』の部分、つまりラストについては全く誉めようが無い。CGの完成度云々よりも発想が安直過ぎる。こういうのはオマージュといわずモノマネ、或いはパクリと云う。これには正直、ガッカリした。
作品が伝えるメッセージは明確。「小義を捨てて大義に付け」。確かに秦始皇帝(この当時はまだ秦王エイセイか)が喜びそうな、発しそうな思想である。この論を現代訳すれば「アメリカのやり方は確かに悪だが、最大多数の無事の為にはアフガンやイラク民間人の多少の犠牲は致し方なし」ということになるだろう。 俺は賛同しかねるが至極真っ当なご意見である。これは一方の真理である。
ただ幾らなんでもストレート過ぎる。単純明快過ぎる。こんくらいの故事なら自民党の若手論客にだって引ける。映画のメッセージってのはもっと複雑な葛藤の末に成り立つものであって欲しい。既にけにろんさんが仰っているが、無明が何故自説を曲げたのか、また彼の暗殺への決意は一体どれ程のものであったのか、またそれをさせた動機(親が殺害されたからと口では述べているがどうも曖昧)はなんだったのか、もう少し具体的に語ってくれても良かったのでは。
あと秦の天下って秦王一代で滅びちゃうんだけどこのことに関してはどうなのかな。米帝も直ぐに滅亡するって隠しメッセージか?
もう一つ。飛雪は見解の相違を理由に残剣を刺殺するわけだが、ここの迫力が今ひとつであった。何故なら回想の中で残剣は既に三度も刺されているからだ。(しかも「赤」の場面では一度死んでいる。中村錦之助じゃないんだからそう何度も死ぬもんじゃない。)これは場面の取捨選択のミスであると思う。「赤」の場面は飛雪が剣を突く瞬間までで止めて置いて残剣の死に際は映像化すべきでなかった。例えば、飛雪が残剣を突く瞬間で暗転、そのまま場面を森に転換し泣き叫ぶ如月の顔を捉えればそれで充分に残剣の死は暗示できたはずだ。刺殺の直前に置かれた残剣と如月の情事場面ではジャンプカット(省略)など交えて鮮烈に描けているのに何故こんな単純なミスを犯してしまったのだろう。名匠ともあろうお方が。
マギー・チャンの圧倒的演技力と映像表現の美しさ(特に最初の張空のシーンは溜息が出るほど見事)、録音技師の迫力のシゴトのみが印象に残る作。
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