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[コメント] HERO(2002/中国=香港)

目で楽しむ始皇帝暗殺・中国大絵巻。かつて物語で我々の心を揺さぶってきたこの監督が初めて挑む「画で心を揺さぶる作品」(きっと最初の発想はそんなもん)。確かにシーン毎に額縁に入れたいほどの美しさ。ただ記号化された感情描写じゃあちっとも琴線には触れませぬ。記号化された絵でもね。
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それにしても中国は様式美が好きだ。これは日本人も同様で、歌舞伎に代表されるようにきっちり決まった絵にはなぜか惹かれる。そこをワダ・エミはしっかりわかっており、時代考証関係なく「目で見て美しい」衣装を作った。美術はその衣装が映える装置をつくり、そして場所を選んだ。

確かに我々は一遍の詩や一枚の絵画に涙することもある。しかし、それは目で耳で聞いた「向こう側」がそうさせるのであり、そのものではないことが多い。監督はつまりはそこを見誤ったのではないか。視覚・聴覚的に訴えようとした目論見はそこそこ成功したものの、「向こう側」を見る気になれない物語の薄さ、いや、逆にいえばあまりに薄すぎて最初から「向こう側」が見えてしまっているのだ。

私が『初恋のきた道』に感動したのはチャン・ツィイーの笑顔だった。笑顔の向こうにその村の歴史や男女が交際するための壁、そして彼女の胸いっぱいの愛を読み取れたからだ。ここにはそんなものは微塵もない。秘めた感情どころか表情がそのまま感情を説明している。

各地で築いた城壁を始皇帝が繋げて完成させたという万里の長城。この煉瓦が実は「餅米」で接着されているのをご存知ですか。当然セメントなどない時代とはいえ、世界の遺産とも言うべきこの紀元前からの壮大な建造物が「餅米」で繋がれている。この意外な事実を聞くだけで建造する人たちの汗や風景、そして当時の生活様式までもが脳裏に浮かぶ。当時の主食は雑穀が主であり、米の上をいく餅米を使用するにあたって農民に強いられた苦労や建築労働者の姿を思い浮かべることは狂おしくも遠大で興味深く、想像は果てしない。この作品には「見くびっている」という台詞が何回か登場する。しかし、今回見くびられたのは我々観客の想像力の方だったのではないか。

(評価:★3)

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