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[コメント] ラスト サムライ(2003/米=ニュージーランド=日)

ハリウッドのダイナミックな映像と音楽が日本のサムライと結合。最強のタッグです。侍に憧れるというトム・クルーズの心魂を疑った私は愚か者でした。私が待ち望んだこれぞ日本の時代劇、大感謝です。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







色々書いていたら長くなってしまいました。気が向いた方読んで頂けると嬉しいです。

正直言いまして、(異論は覚悟の上ですが)私は、最近の日本を代表する監督の時代もの(『座頭市』、『たそがれ清兵衛』、『雨あがる』など)に、その時代というよりも現代を感じてしまい、何かしら「フィルタリング」されているようで、どうにも物足りなさを感じていました。私が時代映画に求めるものはその時代の轟きとロマン。 本作は、そんな私の気持ちを十分すぎるぐらい満足させてくれる作品でした。

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本作で描かれた日本は、もしかしたら維新後の日本に似ても似つかないものかもしれません。ずばり、維新後何年も経った当時、勝元の一党のように鉄砲を使わず、元亀・天正の戦国武将のような姿のまま戦いに挑む一行などいなかったことでしょう(鉄砲は300年以上前の信長の時代に伝来していたものですから・・・。いたとすれば、戦略を度外視し、真剣と死にこそ侍の意義を見出した、文字通り最後の侍ということになるのでしょうが、私の記憶では該当する一党はない)。 加えて、登場人物の設定も明治天皇以外は全て実在しない人物で、物語もフィクションであるにもかかわらず、全く違和感を感じさせません。 これは、一体どういうわけでしょうか? 

私が思うに、本作に違和感を感じさせない最大の要因は、ハリウッドのダイナミックなスケールとハンス・ジマーの音楽が、日本のサムライに調和することで、身震いするほどの迫力を表現し得た点にあると思う。ハリウッド資本でこれだけの日本を描けるとはただもう驚きですし、もしかしたら、日本の外から撮ったほうが「日本の現代」と言う不透明なフィルタを介さずにストレートにサムライを描くことができるのかもしれません。

あの森の霧の中から駆けて来る甲冑武者の勇敢なことといったらどうでしょうか!(私がもしあの場で鉄砲を構えている身だったら、逃げることも撃つことも忘れ、見惚れてしまうこと間違い無しです。)最後の会戦シーンなど、その構成にかの名作『ブレイブハート』を思わせるものがありました。 ほんとにもう印象的なシーンを挙げると限がありません。

そして、俳優の素晴らしさ! 悲劇の英雄、勝元を演じた渡辺謙の貫禄、無言のサムライ大将、真田広之の男らしさ、小声で話す小雪の悲しげな視線、福本清三の渋さ、菅田俊の逞しさ、そして、髷を切られた小山田シンの無念と死の潔さといったら、日本のサムライの良さ、日本の俳優の演技力をまざまざと魅せつけてくれるものでした。

更には、日本の文化に十分な配慮をしていた点も見逃せません。特に異国を舞台とする作品でも英語の会話を前提とすることの多いハリウッド映画が、日本語をベースとしていた点はよかったと思う。台詞を少なくして表情重視としたところも尚良い。 言葉で印象的なのは、勝元が仏堂で2人の因果について「これも何か(仏)の思し召しだろう」と言った台詞を、英語字幕では "beyond my understanding" と翻訳していたところ。アメリカ式"God"という単語を使わなかった点に配慮を感じました。

勝元の描写について言うと、彼が英語をそれなりに話せた設定には違和感を感じなかった。むしろ、本作にマッチしていたと思う。彼の英語力と、オールグレンを許し、天皇に忠誠を誓い、元老院の元参議だった・・・、などの設定から、勝元は幕末時代、倒幕側にまわった開明的な指導者だったが、明治政府のやり方が武士道に反するとして下野した過去を感じ取ることができる。

また一方では、冒頭で勝元の一党が近代の象徴である鉄道を破壊したように、幕末の尊王攘夷運動から続く当時のサムライの行動(反乱)が、現代のテロリストに類するものであった点もさり気なく描いていた(維新の功臣でもあるサムライが起こした生麦事件、英国大使館焼き討ち事件などは全て日本を愛するが故のテロと言えます。多分、昨今のアフガン、イラクのテロに対するメッセージは含まれていないとは思うが、もしかしたら本作の裏メッセージかもしれない)。

こんな勝元にはきっと実在のサムライのモデルがいると思う。いるとすれば、誰でしょうか?

天皇への忠誠を誓う姿勢から、幕末、旧水戸藩主の息子徳川慶喜の後ろ盾で、天皇に攘夷を直訴しようと立ち上がったものの、慶喜の指示により捕らえられ処刑された水戸天狗党の党首武田耕雲斎を感じるし、明治天皇の信任が厚く、元老院の元参議であったとの設定から、征韓論に破れて下野し、西南戦争で被弾し、別府晋介に介錯させた西郷隆盛を感じる。もっとぴったりのサムライがいるだろう。彼らの最期のように、サムライがサムライであるが故の死(=美)を描いたラストは、まさにロマンと言え、言葉に詰まる。ただもう満足といった感じです。

(長くなりましたが、)最後にトム・クルーズ、このような(薀蓄を語りたくなる)映画をプレゼントしてくれて、本当に有難う! トムのサムライへの愛情しかと受け取りました! ところで、あなたの演じたオールグレンは、サムライの最期を見届けた、と言う事で宜しいですね? まさかオールグレンが最期の侍となった、というオチではないですよね(笑)

(評価:★5)

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