[コメント] ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐(1960/日)
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序盤は真珠湾奇襲大成功。マーチに乗せて円谷プラモ飛びまくり、飛行士の夏木陽介は後部座席で鶴田浩二の指示をライト明滅させて編隊に送り、またはモールス打電し、地図にコンパスすべらせ、雲の下を見張っている。我奇襲に成功せりと打電してバカのように呵呵大笑するのが彼のキャラ全開。編隊はその後、インド洋まで転戦し、5ヶ月勝ちっ放し。沈めた船は計数十万トンと語られる。「向かうところ敵なし」の楽勝ムードは当時の事実だったのだろう。甲板で葉巻吸う山口多門の三船敏郎のショットも印象的で、心の隙が伺える。
夏木は帰省した田舎でも英雄。母三益愛子は小作百姓にさせなくて良かったと悦び、子供らは畦道で♪兵隊さんのお蔭ですと唄う。夏木は新聞読んでアメリカの空母はあとはエンタープライズとコメットだけだとほくそ笑んでいる。上原美佐(『隠し砦』と大違いの岸惠子のような美人でびっくりした)との結婚式当日、帰還セヨの電報みて校長エノケンがコントするなか出立。花嫁衣装の上原と三々九度もせずだた母を頼むと云い残し握手だけする。これは感動的なシーンだか、後の展開を見ればこの夏木の心情も相対化されているのは明らかだ。
藤田五十六はミフネにミッドウェイは第二の真珠湾、叩いて和平交渉に持ち込むのが最善、生きるか死ぬかの闘いといわゆる五十六史観を述べる。海軍記念日にパチンコマーチに乗せて出発、漁船団が日の丸振って見送り。池辺良は作戦説明、まずミッドウェイ島基地を叩き、次に艦隊戦。ここでも守備が少ないから楽勝と夏木は笑っている。このイケイケが次第に萎んでゆく作劇が、単純だが史実に見事にハマっている。
ミフネ、夏木は空母飛龍。艦隊は濃霧で旗艦赤木から無電が入り、ミフネは傍受されると愚痴り、隣の艦長田崎潤は相手が出て来れば話が早いとか嘯いているが、翌日米の偵察機が目撃される。ミッドウェイ島へゼロ戦出発、絵葉書みたいだと鶴田が評するがグラマンと空中戦、そして地上袍の強力な砲撃を受けて、鶴田は戦績は効果不十分、二次攻撃必要と報告する。
そして有名な、次にゼロ戦に積むのは陸戦爆弾か魚雷か問題が発生することになってしまった。島基地攻撃なら陸戦爆弾、敵艦船と戦闘なら魚雷。赤城では小林桂樹、三橋達也、加東大介ら東宝メンバーが鳩首会議。なぜか偵察機からの連絡のないなか、南雲の河津清三郎(飛龍の田崎と相変わらずそっくりで区別がつけにくくミスキャスト)が敵基地攻撃を決め、爆弾積み始めた途端に敵艦隊見ゆ、空母はいないぞいやいたという展開で、ミフネは爆弾で敵船甲板を狙えと云うが河津は正攻法でいこうと魚雷に積み替えしている間に敵機襲来、ゼロ戦の援護なく艦隊はグラマンにいいようにやられる。赤城大破。
鶴田がミフネに直訴というもの凄いキャストでやっとゼロ戦出撃するが、ミフネが航空兵ひとりひとりと握手するのはそんな暇あるのかと思わされる。ゼロ戦はボロ負け、一機は敵空母に特攻突撃して炎上させている。残り8機、次は薄暮攻撃とミフネが云うが薄暮を待たずに敵迫り、飛龍は火の海になり煙と振動だけの世界でリアルに撮れている。序盤からの暗転が甚だしい。伝令が笛吹いて回って総員退艦命令、海に飛び込み駆逐艦へ泳ぐ。主役なのに出番の少ない佐藤允は怪我して動けず、衛生兵が付き添って一緒に沈没。そして凄いのがミフネと田崎、コンパスに荒縄で体躯一緒に縛りつけてミフネの反省の弁。「我々はもっと大きな、とんでもない間違いを犯したのか。余りにも問題は大きすぎる。わしたちの力ではどうにもならん」。決まった時間経っても沈没しないので駆逐艦からの魚雷処分。夏木らは敬礼して海ゆかば流れて、夏木はこれが戦争だと独白する。
三益と渡辺は実家でラジオ、多大の戦果との大本営発表を聞くが嬉しそうな顔もせず、ただ夏木の安否を気遣っている。海の底の飛龍ではミフネと田崎が、ここは太平洋の墓場、まだ船が増える、もう増やしたくないですなあと幽霊の会話。これも凄いがラストも凄い。夏木らは鹿屋で事実隠蔽のため一般人との接触避けて幽閉され、南方前線へゼロ戦飛ばすが使い捨てられるのだろうと陰鬱な予感だけが残るのだった。
この一連のブラックな収束は怪奇大作戦、ウルトラQタッチで、円谷関連を想起させる。ただプラモはいつも通り大したことないがまあ許容範囲。Wikiによれば実際は艦長と山口多門は脱出して米捕虜になっていた(当時は沈没したと信じられていた)とのこと。東宝スコープ。私の観た版のOPタイトルは単に「太平洋の嵐」。
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