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[コメント] スパイ・ゾルゲ(2003/日)

篠田正浩、最後にきて傑作を放つ。性善説を信ずるがためにコミュニズムに殉じたスパイは、満足とともに燃え尽きた。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







コミュニズムは性善説の全体主義、ファシズムは性悪説の全体主義だと自分は把握している。奇しくもゾルゲが2・26事件の義士たちをマルキシズムに似た思想を抱いていると指摘した部分は、なるほどと肯かさせるものがあった。

青年将校たちは、「君側の奸」をくじいたあと、自分たちが納得できる指導者をそこに据えようと考えたわけだが、彼ら自身が眼鏡を誤まることは計算に入れていない。かくてスターリンのごとき独裁者は何の不思議もなく現われ、主義に殉じたゾルゲの家族や朋友を悲劇に陥れてゆく。それを見抜けなかったところにゾルゲの甘さはあった。もっとも、その甘さが彼を魅力ある人物にしていたわけだが(ただし、彼を愛する女給・華子の老いた姿と、彼女が眺めるソヴィエト・東独の崩壊は蛇足であったが)。

演技陣を言えば、イエイン・グレンはよく演技してくれたと思う。問題は篠田が何故か使いたがるジャニーズ系美男子だ。尾崎秀実はモッくんのような頼りなげな万年青年ではないだろう。これは過去の篠田作品の郷ひろみにも言えること。多少ブ男でも演技のできる男優を使ってほしい。あと、東条英機が竹中直人というのは狙いすぎ。思わず失笑を洩らしそうになった。…ただし、そういう側面を差し引いてもグレンの熱演は光るのだが。

余談。戦前の銀座や上海は少々綺麗すぎるのが作り物臭くはあったが、ある種昔見た写真へのノスタルジーを喚起してくれた。その意味でも満足。

(評価:★5)

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