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[コメント] 馬鹿まるだし(1964/日)

悪意。庶民の、そして観客への。
オノエル

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画は「朴訥で愛すべき乱暴者」が時代の波に呑まれて抹殺されていく過程を丁寧に描いたものとして捉えれば判りやすい。作り手のサディズムは嬉々として、徹底して安五郎をいじめぬく。すべてを与えて、しかるのちにすべてを奪う。ひどい。しかしまだまだだ。この作り手が本当にスゴいのは、話の顛末が上質のギャグでオブラートされるところだ。観客は笑っているうちに、映画に充ちたサディズムの一端を負わせられる。

安五郎はいけにえで、祭り上げたのは町の面々だが、山田洋次の指は、ほかならぬ我々観客を指している。「そこで笑っているお前たち、ほんとうに心あたりはないのか?」と。悪意を直視せざるを得ないハメに陥るわけだ。

笑わせたのちに観客を加害者に仕立て上げるという、ギリギリの巧妙な告発にみえてしまって仕方がない。なんとも後味が良くない寂しさ。あるいはヴァルネラビリティー。しかし、これこそが、僕が初期の山田洋次を高く評価する理由なんだがな。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)sawa:38[*] けにろん[*] ゑぎ[*]

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