[コメント] アカルイミライ(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
監督は言霊の力を借りようとしたのではないか。 だってこの映画を観る限り、明るい未来なんてどこにも見えやしないんだもの。
守(浅野忠信)と雄二(オダギリジョー)は絶対的な主従関係を築いていたかに見えたけど、最終的に生き残ったのは雄二だった。刑務所に入って覚悟を決めたのか、守は最期に「行け」とサインを残す。それは雄二の、未来を選ぶ力を信じた結果だ。世の中の腑に落ちないことに腹を立てて怒りを爆発させても、行き着く先はこうなんだよ、と自ら雄二に見せてあげたのだとも取れる。
だからといって人は急に変われるものではない。雄二は唯一自分を受け入れてくれていた守を失って、「お前のせいだ」と暴れてクラゲの水槽を倒してしまう。床の間にするりと吸い込まれてしまったクラゲ。それを見て雄二はますます混乱する。自分が頼るべきものはなんなのか。自分がしたいことは一体なんなのか。その場限りの感情に任せた結果がこれだ。
何もかもを無くして、雄二は夢の世界へ逃げ込む。そこで見たのは、ワイヤーで指を入念に固定し、「じゃあ、またな」と去っていく守の姿だ。動かしようの無い事実。例え自分に向けようとしても、その腕はしおれて下を向いてしまうのだ。だから守はしっかりと雄二を、未来を、前進を指した。
守が処刑された後に、彼の父親である真一郎(藤竜也)と、雄二は出会う。真一郎は息子を失くした一人身の寂しさから、雄二は行き場がなくなった絶望から、二人は一緒に過ごすことになる。
雄二の言動は年老いた真一郎には理解しがたいものであるが、それでも小言を言うこともなく世話をする。「東京の川のどこかにクラゲがいるんです。守が残したクラゲを、徐々に真水に慣れさせていったんです。」最初は信じない真一郎だったが、ある時本当に廃工場の下で光るアカクラゲを見て驚嘆する。雄二はこれまで見せたことのないような満足げな笑みを見せている。しかし真一郎には分からない。クラゲを見たからといって、なんになるのか。現実が変わるわけではない。目の前にあるものから逃げ続けようとばかりする雄二を見ていると、本当にじれったくてしょうがない。そう言ってしまった後に、真一郎は咄嗟に後悔し、息が切れるまで雄二を探し続ける。そう、結局、淋しいんだ。怒りを覚えようと、相容れない思いを持ち合わせようと、淋しさゆえに共存を望む。古い機械を修理して生き返らせても、機械は自分を受け止めてくれないのだ。
真一郎のもとを逃げ出した雄二は、再び遊技場に入り浸り高校生の集団と知り合う。もうなんでもいい。頭がおかしかろうが、不毛なことだろうが、やりたくないことはしたくないし、それでいて生きている実感が欲しい。雄二の妹の彼氏の会社に忍び込んだ彼らは、社会の裏側で、それを壊して大はしゃぎする。しかしその後に待っているものは当然、社会的制裁だ。雄二は一人で逃げ出し、怯え、真一郎のもとへ駆け込む。
「ここに居ていい?」
「行き場所、ないの?ほんとうに、ここでいいの?」
抱きついて泣き崩れる雄二に、真一郎はやさしく肩を叩く。
「私は君たちを許す。好きなだけここに居ていいんだよ」
いがみあい、争い続けるよりも、多少の不満を我慢して手を取り合って生きていくほうが数倍楽だし、淋しさもない。真一郎はそのことをよく分かっていた。
守と雄二が放ったクラゲは、やがて東京中で大繁殖を起こす。猛毒を持っているため、当然問題を起こして駆除される。それを知らない真一郎は、川の方に居た雄二に嬉しそうに声をかける。「クラゲだろう!クラゲが居るんだろう!」
なんでもないです、と止める雄二を振り切り、クラゲの群れを見て興奮する真一郎。雄二は自分のしでかしたことを海に還そうとし、一方真一郎はその成果に躍起になった。異端児である若者の成功はいつだって眩しいものであり、喜ばしいものだ。真一郎は思わずその毒に触れようとする。
未来が明るいか暗いかなんて、誰にも分からない。だってそれは見えないものだから。 それでも現実を受け入れて、その中を泳いでいこうと決意した時、「アカルイミライ」に近づくのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
というか、守のサインが「行け」「待て」だったということに、他の皆さんのレビューを見て初めて気付きました。だって聞き取れなかったんだものw
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。