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[コメント] ラストレター(2020/日)

徹底的に想い出を美化するという耽美的かつ倒錯的な作劇を、美しい映像の力技でねじ伏せる。いやー、岩井俊二、やはり女の子を撮ることだけは上手だ。
すやすや

**ネタバレ注意**
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岩井俊二、やはり女の子を撮ることだけは上手だ。 本作ではコレが極まった感というか、岩井俊二のベスト盤のごとく、お得意の手法をこれでもかこれでもかと繰り出してくる。

逆光のデイライトでフワっと白飛ばしてくるところとか(市川崑かよ)、水のないプールで浴衣に花火とか、水辺に制服とか、もう悶絶するくらい美しい。もはや倒錯というか下手すりゃ変態の領域に手が届きそうなのだが、奇跡的なバランス感覚でアート側に寄せている。素晴らしい平衡感覚。普通の人にはできない技。至芸。人間国宝級の技。 もう本当にため息が出るほどに美しい。

設定があり得ないとか、説明不足でよくわからんという言説をネットで散見したが、この作品にそれを言うのは野暮だ。だってファンタジーなんだから。 なんで、ファンタジーかだって?  だって美咲の遺影が女子大生の時のままっておかしくない?

予告編で若き日の姿が遺影として出ていたので、てっきり若くして病気で死んだのかと思っていたら、10代の子供がいたりして戸惑ってしまった。 わざわざ「お母さんは、自分の写真を撮られるのがいやで、残っていたのが若い時の写真しかないの」という言い訳を、台詞で説明する始末。 当然「そんなわけあるかい!」と思ったが、鑑賞後に振り返ってみて腑に落ちた。

作り手が最初から中年の美咲を登場させるつもりがないのだ。 登場させるつもりがないから、死んだことにしたのだろう。自殺というのはやり過ぎだが。 それは美咲を想い出のままで留めておくため。 中年の美咲を登場させてしまうと、想い出の中の美咲が突然現実に戻されてしまうから。 想い出の中で、美化された美咲しか登場させたくないから、中年の美咲が登場しない。 すごい。現実的な作劇を考えたら普通やらないことをあえてやらない。すさまじい確信犯ぶり。

徹底的に想い出を美化するために、設定をねじ曲げているから、一部の設定が無理矢理になってしまうのだが、そこは気にしてはいけない。美咲みたいな優等生がダメ男なんかと駆け落ちしない? 逆に東大出の官僚とかと結婚していたら、主人公乙坂のことをずっと想っていてくれたかも、という一縷の望みが消えてしまうでしょう?  作劇のために各所に嘘があるのだが、それはファンタジーとしての嘘だから気にしちゃいけないだってば。

蜩のSEをバックに美咲がマスクを取るシーンとか、告白後の裕里(森七菜)のアップとか、 踊り場で2人のカットとか、うっとりするような素晴らしいシーンだらけ。 「あのシーンの、あとの撮り方がいいんだよね〜」という話だけで1時間くらい話せるんじゃないかと思うくらい。 特に雨の中で見送る鮎美と颯香のカットは素晴らしい。 本当は晴れの日に撮るつもりが、天気にめぐまれずに致し方なく雨の日に撮影したということだが、まさに天恵ともいうべき奇跡的なショット。

いやーほんと。岩井俊二、ロリコンとか変な意味じゃなくて、対象物として女の子を撮ることに関しては本当に上手い。

(評価:★4)

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