コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ダークナイト(2008/米)

単純な二元論でなく、善悪を論理的に紡ぎ出す知性の誠実さ。強引なところはあるし、後味もよくないけれど。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 善の中に悪が潜み、悪がまた善を必要とする。荒唐無稽でフルフルにフィクショナルな世界ながら、フィクションというものの持つ力強さを、まざまざと見せつけられた、感がある。例えばベーストオン・トゥルーストーリーだったら、(それが善にせよ悪にせよ、どっちつかずであるにせよ)もっと簡単に結論を導き出しただろうから。

 だが、それでも善に信を置かざるを得ない立場の人間からすると、この映画の、悪に優位を置く結論は、余韻が悪い。原作コミックの世界観からそうなのか、世に迎合して世界観に手を加えたのかわからないが、少なくとも今のアメリカの世相にはマッチしているのだろう、とは感じる。

 もう一つ。レイチェル(マギー・ギレンホール)の本当に愛している男は自分であるという≪フィクション≫を信じることが、ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)なりのヒロイズムを支えている。皮肉というか、滑稽でさえあるのだが、ヒーロー(主人公)をここまで貶める必要があるだろうか? レイチェルがアルフレッド(マイケル・ケイン)に託した手紙によれば、彼女が真に愛す男は検事のハービー・デント(アーロン・エッカート)で、ブルースがバットマンを辞めたらブルースのそばにいたいとかつて言ったことは本心だけど、それは友人として(そばにいる)である、てなことになっている。彼女は嘘をついたり、軽々に心変わりしたりする女ではないということだ。このあたりのキャラクター造形は実に誠実である。だが同時に、≪一人の女が一度に愛す男は一人であるべき≫といったフィクションを無自覚になぞっているようにも思えてしまう。「もちろんそれはフィクションではなく、絶対的真理なんだ」と無意識的にせよ思っているのだろう。善悪の倫理については大いに揺さぶる作品であるだけに、なおさら気になった。

80/100(09/04/25見)

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。