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[コメント] 忠臣蔵(天の巻・地の巻)(1938/日)

生まれて初めて忠臣蔵って面白い話だと思った。独特の美学がある。混じり気のない純和風美学とでもいうような。
G31

 忠臣蔵を扱った作品をとおしで観たのは、これが3作目。いずれも映画だけど、前2作で共通するのは、浅野内匠頭が無能で癇癪な小人物にしか見えなかったこと。そのため、物語の立脚点に違和感を覚えながら観るはめとなった。今回も浅野に対してはほぼ同じ様な印象を持ったけど、一つようやくわかったのは、これは浅野にとって、到底受け入れ難き侮辱なんだってこと。そうとわかれば、これはわれわれが日常で積み重ねる、受け入れ難き侮辱を耐え忍んで受け入れる恨みを、浅野の直情径行に託して観ればいいのだ。無能でプライドだけ高い小人物だったとしても、私利私欲のために何かする”私心”の類は持ち合わせない男だろうから。

 これで素直に大石内蔵助とその一味のあだ討ち譚に入り込むと、実に興味深い連中だ。一年間自重し周囲を欺いて宿願を果たす男たち。描かれるエピソードは、芸者衆を上げての花見シーン、立花左近(片岡千恵蔵の二役)との対決シーン、瑤泉院(星玲子)との永の別れのシーンくらいで、どれもあっさり控え目だが、そのあっさり感がいい。台詞回しも歌舞伎調の節つきなのだが、適度に力が抜けていて洒脱だったし、なにより物語の醸し出す雰囲気とぴったり歩調が合っている(音声の状態が悪くだいぶ聞き取りづらかったけど)。

 泣かせるのは、亡夫の敵討ちを期待する瑤泉院の気持ちを知ってか知らずか(もちろん知ってる)、あっさりこれを否定する内蔵助(ここでの軽妙さこそ阪東妻三郎の得意とするところではなかろうか)に向かって、期待を裏切られ失望した瑤泉院が、言葉は丁寧ながら恨み節たっぷりになじるところ。瑤泉院の裏切られた心情を慮るだけでも涙腺がゆるむのだが、この後、内蔵助が預けた巻き物を盗もうとして捕まった女スパイ(「くやしー」とか言ってた)から取り戻した局(?)が、瑤泉院(中身は知らない)に巻き物を渡そうとすると、「こんな物、要りません!」と怒って投げ捨てる。すると畳の上をスルスルーッと転がって義士の連判状が・・・。ありきたりな演出ですか? そうかもしれんが、僕ァおもわず涙がこぼれた・・・。

 同時代の人が観たら、武家の奥方はこんなしゃべり方しないとか、服装が違う、あそこが違うここが違うといろいろあるのかも、とは思う。だが僕が見る限り、ここに映っている物はすべて、混じり気のない純にっぽん的なものばかり。日本的なものばかりが組み合わさって美を形成するのは、やっぱり凄いことなんじゃないか。被さる音楽と映画を撮るという行為そのものが少し違うけど・・・。瑤泉院に詰める腰元たちは、ほとんど顔が映されることもなかったけど、部屋に彼女たちの居並ぶ風景は、なんとも美しかった。もちろん画面は白黒だし、きらびやかさや派手さはないんだけどね。

80/100(04/11/27見)

(評価:★4)

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