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[コメント] ショーシャンクの空に(1994/米)

壁に穴を穿つ!
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







確かにアンディ(ティム・ロビンス)が有罪か無罪かわからなければこの作品は楽しめないかも。私は先に原作を読んでたのでその点にはあまり注意を払って観てなかったが、もしそこの描き方を意図して曖昧にしていたとしたら、それは失敗だったと言わざるをえないだろう。もちろん万人に了解させることなんか出来るわけないにしても。

でも、《ぽんた》さんがスパッと言ってくださってるように、

彼は無実なのです。

ほんとはこの一文は赤reviewの外側に出しておきたいところだけど。本質的な意味でのネタバレにはならないと思うし、むしろ映画の理解に役立つんじゃないかという気がするが、当時配給会社が「無実の罪で刑務所に入れられた男」的な宣伝でもしていたならともかく、実際観てわからない人がいたのだから、念の為。

***

《ぱーこ》さんが書いているのとは違う意味かもしれないけど、自分の今いる状況に不満を持ち、そこから脱け出したいと思っているのに、脱け出す術を知らずにもがいている人たちは、ある意味刑務所の中にいるようなものだよね。アンディが凄いのは、自分の正義を勝ち得るため、希望を持ちつづけ、あらゆる努力を試みたこと、それこそ自分の目指す目標と比べたら気の遠くなるような、小さな小さな努力をコツコツコツコツと積み上げていったこと、じゃないかな。もちろんオハナシだから目標を成就するけど、途中経過に十分説得力があれば、逆にああいう結末じゃなきゃ怒!ですよ。

原作では、もっと語り部に徹していたレッドが解説していたように記憶してるんだけど、初めはアンディも、小さなハンマーで壁を穿つという行為が、脱獄の成功に結びつくとは思っていなかったに違いない。むしろ、何もすがるもののない世界で希望を持ち続けるという、あてのない行為の象徴として始めたのではないだろうか。きっと何度も絶望に襲われたこともあったろうけど、そんなときにも行動として定着させた「壁を穿つ」という行為が、逆に希望を産み出す瞬間もあったんじゃなかろうか。

だからこそ、観ているわれわれに力を与えるのだ! みんなで共謀してドイツのナチ野郎の鼻を明かしてやろう、てな映画とは違うのだよ!(ごめん。『大脱走』は観てない人がいたら観なきゃいけない映画だよ) 映画の中でもさらっと触れていたけど、むしろA・デュマの『モンテ・クリスト伯』と共通する。(Dumasをダム・アスと読むシーン。原作にはない。笑った)

***

原作に縛られすぎ、と言われるかもしれないけど、レッドが「意味ありげ」になりすぎな気がしたなあ。モーガン・フリーマンを起用すればそうなるけど、これって単に、登場人物の何割かは有色人種にしなきゃいけないという規制のためじゃないかなー。キング(白人)原作で特に人種の指定がないから(ない故に)当然白人だと思って読んでた。それにレッドってレッドネック(=南部の無教養で荒っぽい白人)のことだと思う。フリーマンはいい演技したと思うし、それで感動した人がたくさんいるのなら、映画は楽しんだもん勝ちなんで別にいいんだけどさ。

も一つ。シスターズと呼ばれる男狩り主義者(?)たちから犯されそうになるアンディが、頭上にナイフ(のようなもの)を突きつけられフェラチオを強要されてるのに「No」を言うシーンがあったでしょ。

シスターズの1:「お前は状況がわかってないな。このナイフでお前を殺すことなど、わけのないことなのだゾ(←不正確。こんな感じか?)」

に対してアンディ、

アンディ:「おまえこそ状況がわかってない。俺の口にお前がモノを突っ込んだ瞬間に力いっぱい噛んでやる。脳みそにナイフを突き刺してもいいが、脳は突然の衝撃を受けると全身を強く痙攣させるので、お前のモノは必ず噛み切られて使い物にならなくなるだろう(←こんなちんたら言ってない。もっとスパッと言ってたと思う)」

さすがにシスターズも恐れをなし、しらけてその場を立ち去るので事無きをえるのですが、実は原作ではこのシーン、犯された後なのですよ。ズボンとパンツを膝までズリ下げられ、肛門から流れ出た夥しい血が大腿をすべり落ち、床に血だまりを作る。そんな状況下でのフェラチオ拒否。力で負けて押さえつけられたとしても、決して相手に屈服することなく、徹底的に抵抗を続けるアンディの不屈の精神を描いたシーンだったんです。もちろん映画でそんなシーンを挿入したら、R-18に指定されるなどして観客層を制限することになるだけからあっさり描いたのでしょうが、私は読んでてかなり感銘を受けたシーンだったので、映画見てガッカリに近いくらいしらけてしまった。

原作を知らずにこの映画を観た方が、なんか頭のいい主人公が利口に立ち回って、最終的にはうまくトンズラこいちゃった、てな印象を持ったとしたら、そこらへんの描写の弱さにも原因があるんじゃないかな、と思って書いてみた次第。

というわけで、原作、面白いスよ。

***

アンディが一人で放送室に閉じこもって、クラッシックを全館に懸けるシーンは原作にはないんだけど、ゆったりくつろぐアンディの姿が、誰にも邪魔されることのない、精神的自由の素晴らしさを象徴しているようで、うまいなあ、と思った。

80/100(02/03/14書改)

追記:この世に完璧な作品は存在しないけど、短く適切な表現でそこらへんを鋭く衝いたサイマフさんのコメント(&レビュー)を読んで、思わず吹き出してしまった。

(評価:★4)

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