[コメント] 男はつらいよ 私の寅さん(1973/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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前の晩の長電話で「電話代を2800円も取られたんだぞ」(おいちゃん)てのもリアルな感じでよかったが(なにしろ大分・別府ー東京・柴又間だ)、今晩もまた長くなりそうというところで“最終兵器”満男登場。「伯父ちゃん、お土産買っていくからね。バイバイおならブー!(ガチャン)」。さすがの寅も何も言い返せない。 赤ン坊の頃から伯父・寅さんを間近で見てきた甥・満男の最初の大活躍という感じか。さくらや博は、寅の対抗札として育てようとしたのかしらん。
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渡世人であり、型にはまった振舞いや台詞回しが大好きで、大得意な寅さん。大多数の映画観客も、そういうのを見たり聞いたりするのが大好きで、ここに映画と観客の幸せな関係が成立する。本シリーズにおける基礎構造みたいなところである。
九州旅行から帰ってくるおいちゃん一行を、水も漏らさぬ完璧な段取りで待ち構える寅。この段取りがまた寅さんらしく行き届いていて楽しいのだが、いざおいちゃんたちが到着すると、観客の期待をすり交わして、寅はお風呂の湯をかき混ぜている。似た場面の繰り返しを避けると同時に、照れ臭い・照れ隠しを描写した演出な訳だ。さらには、いつもはすれ違いや誤解からケンカばかりしているおいちゃんたちに、この想いが素直に伝わるという、別の幸福感を表すシーンとしても機能している。上手い、と思えるかどうかはともかく、この珍しい幸福感が前半部の着地点であることには納得性があったと思う。僕には、岸恵子が登場する、いつもとは違うペースで進む後半部にも、この珍しい幸福感が反映されていて、作品全体に統一感があるように見えたのだけど。
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寅の恋患いの現場を目の当たりにしたりつ子(岸)は、その場から逃げ出してしまう。初めて寅の想いに気づき、そのことにたじろいだという描写だ。
その後、寅がもう一度、りつ子の家を訪ね、そこでりつ子から、寅の気持ちには応えられないとはっきり告げられるシーンに続く。寅はこう言葉を返す。
「お前さんの言いたいことは分かるよ。でも、俺があんたに惚れたとかはれたとかいうのは思い違いだよ。俺はずっとあんたの友だちでいたいと思っているだけだよ」
自分が惚れた相手の、惚れた相手だからこそということなんだろうが、立場を慮って、自分が惚れたということが、相手の心理的負担にならないように配慮してあげられる。なかなか人間、こういうことはできねえ、と言うか、俺には絶対できねえと思わされた。正直、寅さんかっこいい。寅さんというこれまで積み上げられてきた理想像を、さらに正しく積み増すことに、本作は成功していたと思う。少なくとも僕にとっては。
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中学の技術で習った抵抗体のカラーコードの色と数。今でも覚えているのは黄色が4番ということだけ。黄四(岸)恵子。なんともはやとにもかくにもそれだけの大女優なのでありますから(?)、美人好きの寅が惚れちまうのに説明は不要なのです。
80/100(19/01/05見)
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