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[コメント] 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(1983/日)

これまで31作積み重ねられてきた寅さんの、集大成的な面白さが炸裂。大爆笑だった。映画ってこういう楽しみ方もありうるのだ。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 今作を観たのは、10年ぶりの2度目。前回も面白く観た記憶はある。その頃はまだ、寅さんは計10作ほど、それも散発的にしか見ていなかった。今回、前31作の9割はこの半年で見ている(TV放映やDVDでだが)。

 例えば、満男(吉岡秀隆)が棒立ちで寅を見続けている。さくら(倍賞千恵子)や博(前田吟)にだって、部屋に入ってくる坊主らがまるっきり視界に入らないということはないはずだ。まさかこんなところに兄がいるとは、しかも坊主のなりでいるとは、まったく思いもよらないので、見ても見えていないのだ。2人が寅に気づいたときの驚愕した顔。本当に目が真ん丸になっている。こういう小芝居の面白さは、本作だけを独立して鑑賞しても味わえない。

 寅がニセ坊主になる。この発想。意表を衝かれるし、できるわけもないが、なんとなく成立しそうなものがある。これまで見てきた寅のキャラクターが、不自然でなく結実している。いい加減なヤクザ者気質、テキヤで鍛えた人前での度胸、立板に水の啖呵売・・・。渥美清がもちろん絶妙な芝居をしてくれる。「天に軌道のあるごとく」、坊主の言うセリフじゃないけど、思わず感心してしまった。「寅さん」の面白さをあらためて発見した気にさせられた。

 そして、ただ一方的にマドンナへの想いを募らせるだけではない寅。朋子(竹下景子)に、自分への好意があると分かった上で、それを彼女に言わせないよう計らう。駅までの帰り道を一緒に行きたがる朋子に、寅は、どーでもいい土産の佃煮かなんか買いに行っちゃって。僧侶になる努力をしてみたのも、彼女の気持ちに応えようとしてのこと。僧侶になんぞなれようはずもない自分を再認識し、朋子には相応しくないと身を引いたのだ。気持ち良くも悲しい、これぞまさに「寅の倫理」だ。寅は、ただの脱糞器や残念な木偶の坊ではない(少なくとも今作は)。

 これからも繰り返し観たいと思う。日本映画の大傑作ではないか。

90/100(19/7/6記)

(評価:★5)

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