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[コメント] 動くな、死ね、甦れ!(1989/露)

振り返ると、あの時、俺の少年時代は終わったのだと、わかるのである。
G31

 このあり得ないほどの過酷な環境、想像を絶する騒々しさ、脈絡のかけらもない雑多さは、己の全神経と全肉体でしか世間を認識できなかった者、つまり少年の視点から見た「世界」なのだ。少年の実感からしたらこれでも表現は控え目なくらいなのだ。(むろん現実にとてつもなく過酷な環境だったろうが。)

 彼は、この世界に生まれ、この世界から傷を受け、この世界に学んだ。彼の生まれ持った激しい性格は、彼に、普通の子供にはなかなかできない過酷な体験を与えた。それでも彼はこの世の中で、無条件に庇護される存在だった。少年であるから彼は、生きていかれた。だがある時彼は、突然、もはや自分が無条件に庇護される存在ではなくなったことを知る。否、いまさっきまで自分が庇護される存在だったことを思い知るのだ。(ガーリヤは、生きているのかいないのかもわからないまま、突如いなくなってしまった。) 彼は、この過酷な世の中に、丸裸で放り出されたようなものだ。すなわち彼の少年時代は終わったのである。

 聞くところによるとこの映画のもともとの題は『守護天使』だという。弱冠人間離れしたガーリヤの存在は、彼を庇護する物の一方の象徴であろう(もう一方は彼を包んでいた世界そのものである)。この映画の続編のタイトルが『ひとりで生きる』(←未見)であることもまた象徴的だ。

 もちろん、「今」この地点に辿り着いているから、過去が振り返れるのである。ラストの(暴露的な)混乱した視点の存在は、過去を振り返れる「現在」という立場のあること(そしてそこで彼は映画監督という立場にある)を明示するためと考えられる。

 ただしこの混乱は、洗練されているとは言えない証明だから、彼がどこまでこれを意識してやっているのかは不明である(と、しておく)。

80/100(08/03/13記)

※タイトルはロシアの子供の遊び(ゲーム)の名前だという。←まだ誰も書いてなかったので。隠れんぼ、だるまさんが転んだ、缶蹴り、ポコペン、ドロ巡、そんな類の何かだろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)[*] ペペロンチーノ[*]

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