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[コメント] スカーフェイス(1983/米)

人間の欲望に、行き着く果てはないにしても、限りはあると見た。そんな一抹の寂しさを湛えた作品。
G31

自分の通ってきた道を隠蔽する為の後ろ向きの嘘ではなく、自分がこれから進むべき道が当然そこにあるかのように装う前向きの嘘。相手の立場と心理状態を見抜き、弱みにつけ込んで突破口を切り開く為の嘘。今ここに存在する自分という誰にも否定できない事実を最大の武器に、誰にも検証できない嘘の事実で固めた虚構の世界。トニー・モンタナはまさに先回りの天才であって、彼自身が映画の中で語るように「嘘を言う場合でさえ真実がある」。

同じくアル・パチーノ主演の『ゴッドファーザー』とよく比較されるようだが、イタリアン・マフィアがシチリア島以来の文化や血縁という"歴史"を色濃く引きずっているのに対し、このキューバ出身のチンピラは、革命によって地域や血族との結びつきを失った、歴史を持たない一種のアプレ・ゲール(古いね)だ。もう少し欲望との付き合い方を知っていたら、母親を悲しませることもなく、もっと高い所まで上りつめたのかもしれない。日本でいうと、戦後の混乱を浮浪児として生き抜き、後に80年代末に花咲いたバブル紳士を彷彿とさせる。

見事に役と一体化したパチーノの名演は内面から、2時間50分の堂々たる重量感は外面から、一人の男のたどった有為転変を立体的に描き出した。

80/100(02/09/15記)

(評価:★4)

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