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[コメント] マルサの女2(1988/日)

宮本信子の寅次郎化、あるいは水戸黄門化はじまる。ソバカス濃くなってるし、増えてるし。
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さて、『マルサの女』の大ファンなオイラが、生れてはじめて先行レイトショーなるものを体験したのは、この『マルサの女2』(18歳未満禁止のはずなのに、やっぱり15歳でも入れるもんだよなあ。あっ、ヨイコのみんなは真似しちゃダメだぞう〜)。衝動的に観に行ったもんだから、帰り終電なくって「ゴッドファーザー、お願いが・・・」なんて電話したっけね。

そんなどうでもいい話はさておき、この「2」です。

個人的な意見だが、伊丹十三監督はこの続編を作るべきではなかった、と。いや、「1」は当時のアニメ以外の日本映画では異常な盛り上がりだったし、大衆的にも批評家的にもウケが良かったし、「続編が見たいぞ!」という声に応えるべくして応えたのだろう。でも、作るべきではなかった、と僕は思う。

この作品で伊丹十三は「社会派」に目覚めてしまった。自分の世界観の「枠」を限定し固定してしまった。初監督作品『お葬式』から『タンポポ』『マルサの女』と三本も立て続けにヒットを飛ばしちゃったもんだから、ヘンに「ヒットメイカー」なる妙な自負を持ってしまった。そして、メディアにノセられるままに、たった三本の実績で、自分の映画論を語りだしてしまった。そして、気付いたときには時すでに遅し、『大病人』や『静かな生活』で軌道修正というか冒険を試みるも、その興行的失敗と周囲の落胆に耐え切れなく、『スーパーの女』『マルタイの女』と、紋切り型の寅次郎化、水戸黄門化した「世直し女」=宮本信子のシミュラークル人形を増産してしまう。

そう、きっと誰だって、あのマルサの女のその後の活躍が見たかったに違いない。しかし、その期待に一度応えて見せてしまえば、またその後の活躍が見たくなるのが人情というものだ。だから、あの『マルサの女』の味が忘れられない観客は、「"チョメチョメ"の女」シリーズに足を運んでは、役名は変わるもその実どれもターミネーターな女=宮本信子の登場に拍手で迎える。そして、結局は似たような予定調和の活躍に「ふ〜ん、今回はアイツを征伐するのねん・・・。あ、ハイハイ、お疲れサマンサ(フル〜っ)。で、次は?」な理不尽なガッカリ感に終わる。

思い出してほしい。この宮本信子の『マルサの女』での役名を覚えている人がいるだろうか。板倉亮子だ。いや、他の映画の彼女の役名を覚えている人がいるだろうか?この「2」から、宮本信子は「板倉亮子」ではなくなり、「板倉亮子」は宮本信子でなくなり、「世直し女」の<記号>の<宮本信子>となってしまった。【 】では括れない<宮本信子>だ。

それはなぜか。この「2」は映画的にマルサと悪者の対決を「見せる」ことに神経を使っている上に、中途半端に三國連太郎サイドの物語を語ろうとし、それだけでなく、社会に問題提起をしたいという意図までも盛り込もうとしたために、そのそれぞれが相反して空中分解してしまったゆえである。

つまり、これまでの伊丹作品は「見せる」ことに全力を注いでいたからこそ、観客がその中に物語性や社会性のエッセンスを抽出し「楽しんだ」のに、監督はその観客の「目」に対して信頼しなくなったと言える。伊丹監督が意図した通りに「楽しんで」ほしくなった、とも言える。そうすると、映画は<オシャベリ>で喧しくなってしまうのだ。そうでなくとも、伊丹監督の撮る画は十二分に<オシャベリ>なのに、だ。 その<楽しんでほしい>という思いが、空回りしはじめた萌芽が、この「2」にあると思う。

結果論に過ぎないが、これは、伊丹監督のような映画作家として致命的なことだったと、僕は思う。良くも悪くも、観客を裏切れなかった、裏切れ"切れ"なかった、この『マルサの女2』。

さて、いい加減にオシャベリな「伊丹論」はさておき、映画自体だ。

リアルじゃないのは別にいい。クソマジメなリアルじゃなくって、映画的なリアルは、別にいい。だが、あの三國連太郎は明らかに伊丹ワールドの住人ではない。彼の三國連太郎然とした重厚な存在感が、かえって伊丹ワールドの<リアル>を滑稽なものにしてしまっている。あの墓場でのシーンなんて噴飯モノだ。

僕がここで言う伊丹ワールドにフィットした<リアル>な俳優は、この「2」でなら、信者役の岡本信人や、同じく信者でくわえ煙草の原泉、ホステスの岡本麗、そして笠智衆に見る。

"ダメ"な映画ではない。けれど、伊丹十三の世界の「化石化」が始まってしまった"残念"な映画だと、僕は思う。

それに、今回は"チチ"のオンパレード、ってほどでもないが、伊丹監督のフェティッシュであると思われる"チチ"が連発されたことにも、ガッカリだ。<印籠>を出すのは、「どだっ!」ってな感じで一回こっきりがヨロシイ。

(評価:★3)

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